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何も起きていない。
少なくとも、表向きは。
フィリアは執務室の椅子に座り、机の上に並べられた報告書を一枚ずつ確認していた。
紙の質感、インクの匂い、書き手の癖――すべてが、いつも通り。
「異常なし」
「問題なし」
「想定範囲内」
文字は整っている。
内容も、整合性が取れている。
それなのに。
(……変だ)
胸の奥で、微かな違和感が、ずっと鳴っていた。
大きな音ではない。
警鐘でもない。
ただ、「噛み合っていない歯車が一つある」感覚。
どこかで、ほんの少しだけ、世界がずれている。
(でも……どこ?)
フィリアは書類を伏せ、指先を見つめた。
小さな手。
三歳の、子どもの手。
(私が、考えすぎ?)




