じいじがやってきた!?辺境の開拓は予想以上にカオス
魔力で気持ちが伝わるようになった翌朝。
私は調子に乗ってベビーベッドの上で魔力ポワポワ練習をしていた。
(今日は“やる気”の魔力を……こう、ぎゅっと……!)
ぽん。
部屋が少しだけ明るくなる。そこへ母様がにこやかに入ってきた。
「フィリア、今日も絶好調ね♡」
(ふっ、この勢いで畑改革も進めるぞ……!)
そんなことを考えていた矢先――。
バァァンッ!!
屋敷に爆発音のような衝撃が響いた。
「ぬおおお!!玄関が破壊された!!?」
父様の叫びが轟く。
(な、何ごと!?)
ミュネが耳を立てて走り込んできた。
「ガ、ガルド様……!お、お義父様が……!」
その瞬間。
「グワッハッハッハ!!久しぶりじゃのう我が息子よ!!」
廊下を揺らす豪快な笑い声。
そこに立っていたのは――
白髪モジャッ!
筋肉ゴリッ!
背中に丸太!
肩に巨大な斧!
圧倒的“じいじ”オーラ!!
「じいじぃーーーー!!」
レオン兄様が飛びつき、祖父様が片手で持ち上げる。
「軽い軽い!もっと食え!!」
(兄様、これ以上食べたら家計が沈むのよ……!?)
父様は頭を抱えつつ尋ねる。
「父上……どうしてここに……?」
「決まっとろう!開拓じゃ!!領地の再建を手伝いに来たのよ!!」
おおおお……!?
祖父様は胸をドンッと叩き、丸太を床に置く。
「さらに領民の精鋭も連れてきたぞ!畑を拡張するぞい!」
外にはたくましい農民たちがズラリ。
「領主様ー!新しい畑、どこに作ります?」
「魔物が出ても大丈夫です!じいさまがいますから!」
(どれだけ信頼されてるの……!?)
祖父様は私を見るなり、目を輝かせた。
「これが噂のフィリアか!かわえぇ!!」
私は“肯定魔力”をぽわっと出す。
祖父様は目を細める。
「……ほう!魔力の揺らぎ……これは大地に効くやつじゃ!」
(じいじ、魔力が分かるの!?)
父様が驚く。
「父上……フィリアの魔力を?」
「当然じゃ!わしは昔“大地の巫覡”と呼ばれた男ぞ!」
(筋肉に見えて中身はレジェンド……!?)
こうして私は問答無用で畑に連行され――
ぽわん。
魔力を漂わせただけで、畑の土はふかふか、雑草がしなしな。
「おおおっ!草が倒れた!」
「作業が楽になる!」
「赤ちゃん様すごい!」
(だから、私は赤ちゃんなんです……)
……だがその直後。
畑の次の問題:育てる作物が無い。
祖父様がドーンと地面に丸太を突き刺す。
「よし!今日からローガル大農地計画を始めるぞ!」
(名前は相変わらずダサい!!)
領民の一人が手を挙げた。
「あの〜じいさま。この畑、何の作物を植えるんです?」
「うむ。何を植えるかのう。」
(……決めてなかったんかい!!)
別の領民が苦笑する。
「今の倉庫、ほとんど種が残ってません。去年の不作で……」
「他の畑で何が育てられてるかも、ちゃんと把握していないんです」
祖父様が父様を見る。
「おい、ガルド。領地全体の作付け状況は?」
父様が言いづらそうに咳払いした。
「い、今……正確には把握していません……」
(父様ーーー!?)
ミュネが慌てて取り繕う。
「し、しかし!フィリア様が生まれたばかりで、みんな忙しくて……!」
祖父様は腕を組み、豪快に頷く。
「ならば!商人を呼ぶしかあるまい!」
そして祖父様は突然空に向かって叫んだ。
「――おい!!例の商人を連れてこい!!!」
(じいじ、誰に言ってるの……!?)
すると後方から農民の一人が手を振る。
「呼んできまーす!!」
どうやら手配済みだったらしい。
◆商人登場
しばらくして、荷馬車を引いた茶髪の若い商人が息を切らして現れた。
「ローガル領御用達、雑貨商人ラットでございます!呼ばれて飛んできました!」
祖父様が言う。
「種を持ってるだけ全部出せ!あと他領が何を育ててるかも教えい!」
商人ラットは慌てて箱を開く。
「こ、こちらが残っている分です!小麦、豆、薬草……ほんの少しですが!」
(少ない……想像以上に少ない……)
祖父様が腕を振り上げる。
「よし!買い占める!!!」
父様が慌てて止める。
「ま、待ってください父上!お金が!!」
祖父様はにやり。
「安心せい。わしの貯金じゃ!!」
(じいじ……有能……!)
商人ラットは続ける。
「他領では、小麦のほか、香草、染料植物などが人気ですね。それに領地内なら芋、かぶ等ですかね?」
祖父様が振り返る。
「フィリア!何がええ!!?」
(えぇ!?赤ちゃんに選ばせるの!?)
私は悩むフリをしながら、そうね‥‥まずは領民が飢えない様に育て易そうな芋類とかぶかしら?前の世界で母さんが家庭菜園してる時に話していたし。それと輸出出来る商品と言っても他の領地と同じ物を育てても仕方なさそうだし。
“部族が飢えない植物と=育て易い”をぽわっと放った。
ぽわ。
商人が目を見開く。
「この魔力……飢えない植物と育て易いですね!」
祖父様が叫ぶ。
「よし!!ローガル領の農業の復活じゃ!!」
領民たちも大盛り上がり。
「収穫量が増えれば商人との取引も増えるぞ!」
「畑が復活か〜ワクワクする!」
結果、芋類、かぶ、豆、小麦、薬草など複数の作物を植えることに決定した。
私は祖父様の腕の中で小さく魔力をふわっと漂わせる。
ぽわん。
「おおっ!フィリア様が“良い感じ”の魔力を!」
「これは豊作の兆し!!」
みんなが笑顔に包まれる。
父様はほっとしたように呟いた。
「……フィリアのおかげで、領地に再び光が差したようだな」
母様も微笑む。
「頑張ろうね、みんなで」
(うん……なんか忙しいけど……悪くない!)
こうして――
私は“ローガル領の農地計画”の中心になってしまったのだった。
(赤ちゃんなんだけどね……!?)




