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名家の末娘に転生したので、家族と猫メイドに愛されながら領内を豊かにします!  作者:


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整い始めた領地と抜けない緊張

インフラ第二段が動き始めて、数週間。


教育、医療、保管――

どれも一気に変わるものではないが、確実に「形」になり始めていた。


フィリアは執務室の椅子に座り、報告書をぱらぱらとめくる。


「……うん。ちゃんと、回ってる」


そう呟いた瞬間、肩の力が抜けた。


「珍しいですね、領主様が安心した顔をしている」


向かいに座るガルドが、わざとらしく言う。


「だって……ほら。

学校は三ヶ所とも動いてるし、医療小屋も交代制が定着したし、倉庫管理も……」


書類を見て、フィリアは一瞬止まった。


「……あれ?」


「どうされました」


「この倉庫管理、誰が責任者?」


ガルドは当然のように答える。


「元・帳簿係のラザルだな」


「……あの、“細かすぎる”ラザルさん?」


「ああ」


フィリアは、嫌な予感を覚えた。


■倉庫が“完璧すぎる”問題


確認のため、倉庫へ向かうと――


「フィリア様! こちらです!」


元帳簿係ラザルが、目を輝かせて迎えた。


「見てください! この整然とした棚!

品目別、使用頻度別、季節別、劣化速度別に分けました!」


「……えっと」


「こちらが“すぐ使う棚”、こちらが“近いうち使う棚”、こちらが“たぶん使う棚”、こちらが“念のため棚”です!」


「多くない?」


「必要です!」


ラザルは即答した。


倉庫の中は、確かに完璧だった。

だが――


「……あの、ラザルさん」


「はい!」


「薪、どこ?」


「薪ですか? えーっと……」


彼は走り出し、三つ角を曲がり、二段の棚を越え、奥へ。


「こちらです!」


「遠くない?」


「劣化と虫害を考慮すると最適です!」


フィリアは、そっとガルドを見た。


「……完璧すぎて、使いにくいね」


「だな」


二人は同時に頷いた。


■医療小屋の“勘違い”


次は医療小屋。


「最近どう?」


フィリアが声をかけると、薬師の女性が苦笑した。


「ええ……それが……」


「?」


「“軽い咳”とか“ちょっと疲れた”とか、そういう人まで来るようになりまして……」


「それ、いいことじゃ?」


「……はい。

ただ、“お茶を飲みに来る人”も混ざってます」


その瞬間、奥から声がした。


「いやぁ、ここ来ると安心するんだよなぁ」


「医療施設を休憩所にしないでください!」


フィリアは思わず吹き出した。


「……まあ、健康意識が上がったと思えば」


「そう思うようにしています」


■学校で起きた“小さな反乱”


最後に学校。


静かなはずの教室から、ざわざわと声が聞こえる。


「フィリア様!」


教師の一人が駆け寄ってきた。


「どうしました?」


「子どもたちが……」


中を覗くと――


黒板の前で、子どもが腕を組んでいた。


「先生! この計算、生活で使わないです!」


「使います!」


「だったら、薪の数でやってください!」


「……」


フィリアは一瞬ぽかんとして、次の瞬間、笑った。


「……いいね、それ」


教師が驚く。


「え?」


「生活に結びつく方が、覚えるもん」


子どもたちが一斉にざわめいた。


「やった!」


「じゃあ豆でもいい?」


「豆は数が増えすぎる!」


教室が一気に騒がしくなる。


■執務室にて


夕方。


フィリアは椅子に深く座り、伸びをした。


「……整った、はずなんだけど」


「歪みも出ましたな」


「でもさ」


フィリアは笑った。


「前みたいな、“壊れそうな歪み”じゃない」


倉庫は使いにくいが、物は守られている。

医療小屋は混むが、誰も倒れていない。

学校は騒がしいが、学ぶ気はある。


「……贅沢な悩みだね」


ガルドは、少しだけ柔らかく笑った。


「それだけ、余裕が出てきたという事だ」


フィリアは窓の外を見た。


人が歩いている。

子どもが走っている。

生活が、ちゃんと続いている。


「……よし」


立ち上がり、小さく拳を握る。


「じゃあ次は、“整えすぎない調整”だね」


「難しいですな」


「うん。でも――」


フィリアは楽しそうに言った。


「前より、ずっと楽しい」


こうして領地は――

安定という名の、新しいドタバタ期へと入っていった。


静かではない。

完璧でもない。


だが確かに――

“生きている領地”だった。

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