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名家の末娘に転生したので、家族と猫メイドに愛されながら領内を豊かにします!  作者:
守る仕組み

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静かな違和感

朝は、いつも通りだった。


畑では青天麦が風に揺れ、

銀光豆の乾燥棚では作業員が淡々と手を動かしている。

原種区画の警備も問題なし。

帳簿上の数字も、異常はない。


――あまりにも、何もなかった。


フィリアは執務室の窓から外を眺め、小さく首を傾げる。


「……静かすぎない?」


隣で書類を整理していたガルドが、眼鏡越しに彼女を見る。


「平穏、というやつでは?」


「うん。平穏なんだけど……」


フィリアは、言葉を探すように指を組んだ。


「“波が来る前”みたいな静けさ」


ガルドは一瞬だけ黙り込み、やがて苦笑する。


「嫌な勘だ」


「……だよね」


違和感は、ほんの些細なところから始まった。


その日の午後。

巡回から戻った警備担当が、報告に来た。


「異常は……特にありません」


「“特に”?」


フィリアが聞き返すと、警備兵は少し言いよどんだ。


「人の出入りは記録通りです。ただ……」


「ただ?」


「“通らなかった人”が多い気がしまして」


空気が、少しだけ張る。


「通らなかった?」


「はい。視察申請は来ているのですが、直前で取り下げられる例が増えています」


ガルドが眉をひそめる。


「拒否したわけではない?」


「いえ。こちらが返答する前に、向こうから取り下げが」


フィリアは、静かに息を吸った。


「……理由は?」


「“今回は見送る”とだけ」


それ以上は、なかった。



その夜。


フィリアは、最近の記録を一人で見直していた。


・外部からの視察申請数は減っていない

・だが、実際に来る者は減っている

・問い合わせは、むしろ丁寧になっている


「……変だよね」


圧力が減ったわけではない。

むしろ――


「“様子見”に変わってる」


ガルドが低く言う。


「動かないことで、情報を集めている」


フィリアは、小さく背筋を伸ばした。


「攻めてこない敵が、一番怖いやつだ」


「まったくじゃ」



追い打ちをかけたのは、じいじだった。


夕食後、縁側で茶を飲みながら、ぽつりと言う。


「……若いのう」


「なにが?」


「最近、妙に“若い商人”が増えとる」


フィリアが顔を上げる。


「若い?」


「二十そこそこ。腰が低くて、聞き上手で、名乗らん」


ガルドの表情が変わった。


「名乗らない、だと?」


「名刺代わりの札も出さん。“勉強になりました”だけ言って帰る」


じいじは、茶を啜る。


「昔はの。欲しい奴ほど、名を売りたがったもんじゃ」


フィリアは、指先を握りしめた。


「……見に来てるんだ」


「うむ」


「“盗む”ためじゃなく」


「“理解する”ために、の」



その夜、フィリアは眠れなかった。


襲撃もない。

圧力もない。

規則違反も起きていない。


それなのに――


(見られてる)


そう、はっきり感じた。


ここが、

どうやって回っているのか。

誰が要で、誰が代わりになるのか。

どこを壊せば、全部が止まるのか。


(……やだな)


小さな身体で、布団を握る。


「静かなの、嫌い」


ガルドが灯りを消す前に、言った。


「備えは?」


「続ける」


「以上?」


フィリアは、少し考えてから答えた。


「ううん。変えない」


「……ほう?」


「変えたら、“効いてる”って教えることになる」


ガルドは、ゆっくりと頷いた。


「正解じゃ」



翌朝。


領地は、いつも通り動き出した。


誰も騒がない。

誰も焦らない。

誰も気づかない。


――だからこそ。


この静けさは、

嵐の前触れではなく、

獲物を測る沈黙なのだと。


フィリアは、胸の奥でそう確信していた。


「……来るなら来い」


小さな声で呟く。


「守る準備は、もうしてある」


静かな領地に、何事も起きない一日が流れる。


その平穏が、

いずれ“異常”として語られることになるとは――

まだ、誰も知らなかった。

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