やっと帰った面倒ごと
王都研究官一行の馬車が、領門の向こうへ消えていく。
それを見送ったフィリアは――その場で、ぺたんと腰を下ろした。
「…………」
誰も何も言わない。
数秒後。
「……あー……」
フィリアは、そのまま地面に転がった。
「つ、疲れたぁぁぁ……」
■やっと終わった、という実感
「お、お嬢様!? 地面です、地面!」
慌てて駆け寄るガルドに、フィリアは仰向けのまま手を振る。
「いいの……今だけ……」
「今だけ、とは……」
「もうね、今日は“管理者”も“責任者”もお休み!」
そう宣言してから、フィリアは大きく息を吐いた。
「……あー。面倒ごと、やっと帰った……」
衝突。
気遣い。
線引き。
言葉の選び方。
どれもこれも、神経をすり減らすものばかりだった。
「厄介な人たちじゃなかったですけどな」
ガルドが苦笑する。
「でも、“王都”ってだけで疲れるよ……」
「確かにな。。」
■久々の「何も起きない時間」
執務室に戻ると、机の上は――驚くほど静かだった。
急報なし。
視察予定なし。
新しい書簡もなし。
「……静か」
「……静かですね」
文官たちも、どこか拍子抜けしている。
「今日は、もう大きな判断はしないよ?」
フィリアが念押しすると、全員が即座に頷いた。
「賛成です」
「ぜひそうしてください」
「今日は休みましょう」
満場一致だった。
■フィリア、宣言する
「よし!」
フィリアは椅子から立ち上がり、ぱっと明るい声を出した。
「今日は久しぶりに、のんびりする日!」
ガルドが目を細める。
「そうしなさい」
■ミュネ登場
フィリアは廊下に向かって声を張り上げた。
「ミュネ〜!」
すぐに、ぱたぱたと足音。
「はーいにゃー!」
現れたミュネは、いつも通り元気いっぱいだった。
「どうしましたか、フィリア様?」
フィリアはにこっと笑って言った。
「お茶とケーキ、一緒に食べよー」
ミュネの耳が、ぴこんと立つ。
「ケーキ!? いいんですかにゃ!?」
「いいの! 今日は特別!」
「わかりましたにゃー! すぐ用意しますね!」
そのまま、嬉しそうに走っていった。
■甘い時間
しばらくして運ばれてきたのは、
・香りの良いハーブティー
・焼き菓子職人が試作した素朴なケーキ
フィリアは椅子に座り、足をぶらぶらさせながら一口。
「……おいしい……」
肩の力が、すとんと抜けた。
ミュネも向かいに座り、幸せそうに頬張っている。
「甘いですにゃ〜」
「ね〜」
しばし、何も話さない時間。
ただ、お茶の湯気と、静かな午後。
■ガルドの一言
少し離れたところで見守っていたガルドが、ぽつりと言った。
「……こういう時間も、必要だ」
「うん」
フィリアは、ケーキの皿を見ながら答えた。
「だから、今日は休む」
「それが賢明だ」
■フィリアの本音
フィリアは、カップを両手で持ちながら呟いた。
「……正直さ」
「はい」
「研究官が来る前より、来た後の方が疲れた」
「そうだな」
「でもね」
フィリアは、ふっと笑った。
「ちゃんと帰っていったから」
「ええ」
「押し切られなかった。守れた」
その言葉に、ガルドは何も言わず、静かに頷いた。
■束の間の休息
夕方。
窓から差し込む光が、少し赤くなり始める。
フィリアは、椅子の背にもたれながら言った。
「……また、色々来るよね」
「来ますにゃ〜」
「でも、今日は考えない」
「それで良いのですにゃ〜」
ミュネが、最後の一口を食べて満足そうに言った。
「また頑張るための、休憩ですにゃ!」
「そうそう」
フィリアは笑った。
「今日は、ただの“のんびりする日”!」
原種管理地。
王都。
圧力と交渉。
それらは確かに重い。
だが――
守る者にも、休む時間は必要だ。
こうしてフィリアは、
久しぶりに“何も起きない午後”を味わった。
次に動き出すための、
大切な、静かな一日だった。




