内部ルール、外部に試される
原種管理地としての指定を受けてから、数週間。
領内では、これまでにない“静かな緊張”が漂っていた。
理由は単純だ。
内部ルールが、正式に領内へ発布されたからである。
■領内布告
掲示板に貼り出された文書は、短く、だが明確だった。
・原種区画への無断立ち入り禁止
・植物・種子・加工前素材の持ち出し禁止
・研究・観察は登録制
・違反者は領内法に基づき処罰
・外部者も例外なし
読み終えた領民たちは、ざわめいた。
「……当たり前のことだな」
「でも“外部者も例外なし”ってのは、強気だぞ」
「相手が貴族でも、か?」
噂はすぐに広がった。
■最初の“試し”
問題が起きたのは、布告から三日後。
領門に、立派な馬車が二台並んだ。
「王都より参った、ヴァルヘイン子爵家の使いだ」
名乗りを上げた男は、上等な外套をまとい、当然のような態度だった。
「原種管理地と聞いた。視察と称して、区画を見せてもらおう」
門番は一瞬迷い――
だが、教えられた通りに答えた。
「恐れ入ります。事前登録が必要です」
男の眉がぴくりと動く。
「……子爵家の使いだぞ?」
「はい。外部者の方は、すべて同じ扱いです」
空気が、冷えた。
■通報
数分後、封緘使が駆けつける。
「登録は、されておりませんね」
「今からすればいいだろう。少し融通を利かせろ」
封緘使は、淡々と言った。
「できません」
「なに?」
「それが、領主命令です」
■執務室にて
報告を受けたフィリアは、小さく椅子に座ったまま、腕を組んだ。
「……来たかぁ」
「早すぎるくらいですな」
ガルドはため息をつく。
「“試し”でしょう。ここで折れるかどうかを」
フィリアは、少し考えてから言った。
「通すと、“例外”ができる」
「はい」
「断ると、反感を買う」
「それも事実です」
フィリアは、むぅ……と唸った。
「……でも、決めたもん」
■正式回答
封緘使が、子爵家の使いに伝えた言葉はこうだ。
「原種管理地は、王命に基づき管理されています。規則は、王都にも提出済みです」
「……王都、だと?」
「例外を設けるなら、王命の再確認が必要になります」
沈黙。
使いの男は、舌打ちを噛み殺した。
「……分かった。引く」
馬車は、そのまま引き返した。
⸻
■領内の反応
その日の夜。
「断ったらしいぞ」
「子爵家相手に」
「……やるな、フィリア様」
不安よりも、安堵が広がった。
「ルールが守られた」
「俺たちも同じ扱いだ」
“公平”が、実感として伝わった瞬間だった。
■じいじ、ぼやく
その頃、じいじは茶を啜りながら言った。
「……二歳と三歳で、国の圧力を跳ね返すとはのぅ」
「じいじ、年齢言わないで」
「いやぁ、言いたくもなるわい。何させとるんじゃ、この国は」
全員、深く頷いた。
■フィリアの自覚
夜、窓から領地を見下ろしながら、フィリアは思った。
(……もう、“作る側”じゃない)
(守る側、だ)
ルールを決めるということは、
それを貫く覚悟を持つということ。
そして――
試されるのは、これからだ。
外部は、必ずもう一度来る。
もっと巧妙に。
もっと強く。
フィリアは、小さな拳を握った。
「……でも、負けないよ」
ここは、守るって決めた場所だから。
原種管理地
その名は、この日から――“簡単には崩れない土地”として、静かに知れ渡り始めていた。




