干渉・視察・圧力が具体化
原種管理地指定から、わずか数日。
フィリアの領地は、目に見えて“落ち着かなくなっていた”。
「……ねぇ、じい……」
フィリアは執務室の椅子に座ったまま、じっと書類の山を見つめていた。
「この人たち……誰?」
机の上には、これまで見たこともない種類の文書が積み重なっている。
・王都農務局 視察要請
・学術院 調査同行願い
・貴族連盟 “友好訪問” 打診
・軍需局 参考資料提供依頼
・宗教庁(※蒼霧草関係)非公式問い合わせ
「……増えてる」
ガルド(父/じいじ)は、深いため息をついた。
「はい。増えておりますな。しかも“断りにくいもの”ばかりです」
「ねぇ」
フィリアは、素朴な疑問を口にする。
「わたし、2歳なんだけど?」
一瞬、部屋が静まり返った。
文官たちがゆっくり目を逸らす。
封緘使が咳払いをした。
「……その件につきましては、王都でも“前代未聞”との評価でございます」
「評価じゃないよ!?」
フィリアは机を叩いた(弱い)。
「普通さ、2歳って――お昼寝して、おやつ食べて、転んで泣く年齢だよね!?」
「仰る通りでございます……」
「なんで原種管理地の責任者やらされてるの!?」
ガルドは遠い目をした。
「……才能というものは、時に年齢を無視してしまうものなのです」
「納得できない!」
◆ ◆ ◆
そして、問題は書類だけではなかった。
領地の外周では、明らかに“見慣れない人間”が増えている。
・王都風の服装をした視察団
・学術院の紋章を付けた研究員
・貴族家の従者と思しき者
・目的を言わない“通行人”
「……視線が増えたな」
警備担当が報告する。
「畑、倉庫、苗床。特に青天麦と銀光豆の管理区画を重点的に見ております」
フィリアは小さく唸った。
「……これが、“守る立場”か」
原種管理地指定。
それは名誉であると同時に、
「勝手に扱うな」「勝手に増やすな」「勝手に売るな」
という制約の始まりだった。
◆ ◆ ◆
最初に“具体化”したのは――視察だった。
「王都農務局より、公式視察団の到着です!」
馬車が三台。
格式ばった服装の役人たちが降りてくる。
表向きは丁寧。
言葉も柔らかい。
だが――
「こちらが、青天麦の原種区画ですか?」
「銀光豆の保存方法、詳細な記録は?」
「増殖速度は? 他領への配布計画は?」
質問が、矢のように飛んでくる。
フィリアは心の中で叫んでいた。
(2歳児に聞く内容じゃない!!)
表情だけは、にこっと笑う。
「記録はあります。でも、勝手に持ち出す予定はありません」
役人が一瞬、言葉に詰まった。
「……原種管理地ですから。管理権は、ここにありますよね?」
「ええ。王命にも、そう書いてありました」
フィリアは小さな体で、はっきり言った。
「守るって、そういうことだと思うので」
ガルドが、内心で震えた。
(……この子、もう“領主”の顔をしている)
◆ ◆ ◆
視察が終わった直後――今度は“圧力”が来る。
非公式。
とても丁寧で、
とても嫌なやつ。
「我が家では、青天麦の研究に多額の資金を――」
「共同管理、という形なら――」
「原種の一部だけでも――」
貴族たちは笑顔だ。
だが目は、笑っていない。
フィリアは、机に頬杖をついた。
「……ねぇ」
「はい、フィリア様」
「これってさ」
彼女は、ゆっくり言った。
「“奪いに来てる”ってことで、合ってる?」
空気が、凍った。
ガルドが一歩前に出る。
「――お引き取りください。
ここは“王命指定地”です」
「……失礼しました」
貴族たちは、引いた。
だが――
完全には、引いていない。
◆ ◆ ◆
夜。
フィリアは、窓から畑を見ていた。
青天麦の区画。
銀光豆の乾燥棚。
蒼霧草の小さな薬草畑。
「……守るの、大変だね」
ぽつり。
「でも」
小さく拳を握る。
「ここで曲げたら、
この人たち、ずっと振り回される」
ガルドが静かに言った。
「……フィリア様」
「なに?」
「2歳児に、背負わせる重さではありません」
フィリアは、くすっと笑った。
「うん。だからね」
少しだけ、困った顔で。
「手伝って。じい」
「……もちろんですとも」
こうして――
フィリアは初めて、はっきりと理解した。
“作る側”から、“守る側”へ。
名誉と共に来る、
干渉と視察と圧力。
それでも逃げないと決めた




