ローガル家、実はお金がありません!?赤ちゃん、真実を知る
今日も私は、ミュネの尻尾ゆらゆらを眺めながら、のほほんと過ごしていた。
赤ちゃん生活にも慣れ、最近では「ばぶぅ(=お腹すいた)」「くぅ〜(=眠い)」など、自分なりにコミュニケーションも取れるようになってきた。……多分。
そんな矢先――
とんでもない事実を知ってしまった。
「……ガルド様、こちらが今月の予算書ですにゃ」
ミュネが父様に一枚の紙を渡す。
そこには数字がぎっしり。
私はベビーベッドから【鑑定】でチラ見した。
――【辺境伯領ローガル家 予算書】
収入:ギリギリ
支出:多い
貯蓄:ほぼゼロ
特記事項:最近は赤字気味
(え、ええええええええ!?)
うそでしょ!?
この豪華な洋館に住んでるのに!?
訓練場みたいな庭があるのに!?
装甲乳母車まであるのに!?
……いや、もしかして。
(全部……見た目だけ!?)
そこへミュネのため息が落ちる。
「……はぁ〜〜。ガルド様、やっぱりこの乳母車……高すぎましたにゃ。魔石を三つも使うなんて……」
(え、魔石三つ!?そりゃ高いよ!!)
父様は困った顔で頭をかいた。
「フィリアのためだ。だが……うむ……思ったより経費が……」
母様も少しだけ眉をハの字にしている。
「しかたないわ。お屋敷の修繕も必要だし……何より食費が……」
(食費?)
その時、レオン兄様が自信満々に胸を張った。
「任せて!僕がいっぱい食べるから!!」
「「それが問題なのよ!!」」
父様と母様のツッコミが同時に入った。
(あ……兄様の胃袋問題!?)
兄様、食べるんだよね……よく私の離乳食前の果物もつまみ食いしようとしてるし……
ミュネが追加情報を届ける。
「それに……ガルド様がお酒好きすぎる問題もありますにゃ」
「む? いや、私は適度に……」
(鑑定!)
――【ガルド・ローガル】
趣味:酒
特技:酒
隠しスキル:酒に強い
(認めた方がいい!!)
母様がため息をつきつつも、微笑んだ。
「でも……お金がなくても家族がいれば幸せよね、ガルド?」
父様は照れながら鼻をかいた。
「……まあ、そうだな」
(きゅん……)
野生の恋愛イベントに遭遇した。
そんな空気の中、ミュネがふと私を見た。
「……でも、不思議ですにゃ。フィリア様が来てから、領地の魔物被害が減ったり、畑の成長が良くなったり……」
(え?私何もしてないよ?)
いや……私、寝る前に「ばぶ(=今日もありがとう)」って庭の植物に向かって思ったことあるけど……まさか……それが?
父様が腕を組んで頷いた。
「フィリアの魔力は……この領地に良い影響を与えているのかもしれん」
(え、赤ちゃん補正!?)
ミュネは尻尾をパタパタさせながら言った。
「つまり……フィリア様が健康に育てば、領地は安泰ですにゃ!」
母様は嬉しそうに私を抱き上げた。
「フィリア〜♡あなたはこの家の天使ね〜〜♡」
(え、急に重責!?)
父様は真面目な顔で宣言する。
「よし!フィリアの育成を最優先にしよう!」
レオン兄様も胸を張って叫ぶ。
「任せて!僕がフィリアを守る!」
(兄様、まず食費を減らして!!)
そんな家族の勢いに押されながらも、
私はなんだか胸が温かくなった。
――貧乏でも、この家は楽しい。
そんなことを思いながら、私は
「ばふぅ(=なんか幸せ)」
と呟いた。
ミュネが微笑む。
「……今日もフィリア様は可愛いですにゃ♪」
(今日も騒がしいけど、まあいっか)
――そして、私はすやぁと眠りについた。




