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名家の末娘に転生したので、家族と猫メイドに愛されながら領内を豊かにします!  作者:
守る仕組み

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57/105

青天麦・銀光豆の“王都評価”

王都・学術院付属試験農園。


朝靄の中、広い畑の一角に集まった人々の表情は、どこか緊張していた。


「……これが、例の“雑草扱いされていた麦”か」


農務大臣が、青みがかった穂を指先でつまむ。


「見た目は確かに粗い。貴族農園ではまず選ばれんな」


その隣で、学術院長が静かに首を振った。


「ですが、試験結果は嘘をつきません」


封緘使が提出した報告書――

フィリア領から送られてきた青天麦と銀光豆の原種は、すでに王都の研究班で一通りの試験を終えていた。


「まず青天麦から説明します」


若い研究官が前に出る。


「通常の小麦と比較して、降雨量が多い条件でも倒伏率が極端に低い。さらに、同じ区画での収穫量が平均して三割増」


農務大臣が眉を跳ね上げた。


「三割……? それは、年によっては飢饉を覆す数字だぞ」


「ええ。加えて、粗放栽培でも一定の収量を維持できます。痩せ地、開墾地でも育つ」


学術院長が深く息を吸った。


「……地方領にとっては、まさに“救命具”だ」


宰相が低く唸る。


「つまり、食糧生産の前提条件そのものが変わるということか」


「はい。これまで“麦が育たない”とされていた地域でも、栽培可能になります」


その場に、重い沈黙が落ちた。


これは単なる新品種ではない。

国家の地図を書き換える作物だった。



「では、次に――銀光豆です」


今度は別の研究官が前に出る。


「最大の特徴は保存性。乾燥処理後、五年経過したものでも、栄養価の低下がほぼ見られません」


「五年……?」


軍務大臣が思わず声を上げる。


「それは、兵站の常識を壊す数字だ」


研究官は頷いた。


「はい。加えて、タンパク質含有量が高く、豆粉に加工した場合、主食の補助として非常に優秀です」


「味は?」


「……率直に言って、悪くありません」


その一言で、場の空気がざわつく。


「保存できて、栄養があり、食える」


軍務大臣は乾いた笑みを浮かべた。


「戦争向きすぎるな」


農務大臣が即座に否定する。


「いや、これは“平時こそ価値がある”。備蓄が増えれば、国民は飢えにくくなる」


宰相が静かに言った。


「……この二つ、同時に世に出してよい代物ではないな」


全員が理解していた。

急激な普及は混乱を生む。


価格の崩壊、既存農業との摩擦、貴族間の利権争い――

どれも避けられない。



学術院長が、書簡の最後の一文を読み上げた。


「『本植物群の発見者フィリアは、青天麦・銀光豆・蒼霧草について、国家管理下での段階的普及を提案する』……とあります」


宰相は、ゆっくりと息を吐いた。


「……最初から、そこまで読んでいたか」


王は、玉座に深く腰掛けたまま呟く。


「欲を出さず、独占もせず、だが原種は確保する……」


「まるで、国の未来を預けるつもりで差し出してきていますな」


王は、苦笑した。


「いや……違うな。あの子はただ、“人が飢えない国”を作りたいだけだ」


一瞬の沈黙のあと、王は立ち上がった。


「決定する」


場の空気が引き締まる。


「青天麦と銀光豆は、王命により国家準戦略作物と指定する」


「研究は継続。普及は三段階。最初は試験領地のみ」


「フィリア領は――原種管理地として正式に認める」


宰相が頷く。


「功績に対する褒賞は?」


王は少し考え、静かに言った。


「……今は不要だろう。あの子は、金貨よりも“時間”を欲しがる」


学術院長が微笑む。


「では、その時間を守りましょう」



数日後。


フィリアの元へ届いた、王都からの正式通達。


読み終えた彼女は、ほっと肩の力を抜いた。


「……よかった。ちゃんと、伝わったみたい」


ガルドが、穏やかに頷く。


「正しい判断でしたな。急げば、壊れていたでしょう」


「うん」


フィリアは窓の外を見た。


建築中の校舎。

整備されつつある畑。

忙しく行き交う人々。


「じゃあ次は――この人たちが、ちゃんと食べて、学んで、生きていけるようにしないとね」


青天麦と銀光豆は、まだ始まりにすぎない。


だが確かに――

この領地の足元は、もう揺らいでいなかった。

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