静かに回り始めた歯車と五つの種の未来
夕暮れ時。
工事の音が遠くで規則正しく響く中、フィリアは執務室の窓辺に立って領地を眺めていた。
「……これで、ひとまず落ち着く……かな?」
ぽつりと漏れた言葉は、誰に向けたものでもない。
ただ、自分自身に言い聞かせるような声だった。
ガルドが静かに隣に立つ。
「建築が終われば、指示された通り自然に回り始めるでしょうな」
「うん。今の人員じゃ、これが精一杯だと思う」
無理に進めれば、どこかに歪みが生まれる。
歪みは、修正に時間と人手を食う。
それは、今の領地が一番避けるべきことだった。
「……しばらくは、大人しく“建築が終わるのを待つ”でいいよね」
「賢明な判断です。今は“整える時期”ですな」
フィリアは小さく頷いた。
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■五つの宝植物――今は“予定”だけ
机の上には、五つの植物の簡易資料が並んでいる。
① 金露の木
② 青天麦
③ 銀光豆
④ 赤花コショウ
⑤ 蒼霧草
「……どれも動かしたら大きくなる。でも、今はまだ“触らない”」
焦れば、管理が追いつかない。
だからこそ――計画だけを固める。
フィリアは一枚の紙に、はっきりと書き込んだ。
《優先生産計画》
第一優先:②青天麦
第二優先:③銀光豆
第三優先:⑤蒼霧草
第四優先:④赤花コショウ
第五優先:①金露の木
「まずは……②と③」
ガルドが補足する。
「食えるものがなければ、人は働けませんからな」
「うん。砂糖だけじゃ、お腹は膨れない」
青天麦は収穫量が多く、銀光豆は保存が利く。
この二つがあれば、人口増加にも耐えられる。
「畑の整備が終わり次第、この二つから試験拡張ね」
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■次に来るのは“命を守るもの”
「⑤の蒼霧草は、その次」
怪我人、病人は必ず出る。
特に人口が急増した今、医療は後回しにできない。
「大量生産はしない。でも、常備薬として回せる量は欲しい」
「寺子屋の薬学班にも使えますな」
「うん。教育と医療、両方に効く」
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■価値が高いものほど、後回し
「④赤花コショウと①金露の木は……最後」
商業価値が高い分、目立つ。
目立てば、人も金も集まる。
――今はまだ、受け止めきれない。
「領地がもう一段、安定してからでいい」
ガルドは微笑んだ。
「欲を抑えられるのは、立派な統治者の証ですぞ」
「欲しいけどね?」
「でしょうな」
二人は静かに笑った。
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夜。
工事の明かりが点々と続く領地を見下ろしながら、フィリアは思う。
人は増えた。
問題も増えた。
でも――壊れてはいない。
「……ちゃんと、回り始めてる」
今は待つ時。
建て、整え、根を張らせる時。
五つの宝植物も、まだ“種”のまま眠っている。
だがそれでいい。
目覚める時は、必ず来る。
その日まで――
フィリアは、静かに領地の呼吸を見守るのだった。




