人が増えた、その先へ――静かな再配置と領地の呼吸
人口調査が一段落したのは、あの騒ぎから十日ほど経った頃だった。
机の上に積まれた紙束を見下ろしながら、フィリアは深く息を吐く。
「……うん。大体は、把握できたわね」
完全ではない。
だが、“何も分からない”状態からは、確実に脱した。
ガルドが横で書類を確認しながら頷く。
「世帯数、年齢構成、職種、大まかな居住位置。少なくとも“誰がどこで何をしているか分からない”という最悪の状況は脱しましたな」
文官の一人が補足する。
「特に移住者の内訳がはっきりしました」
・木工・大工系職人と見習い
・その家族(配偶者・子供・老人)
・職を求めて来たが、まだ所属が決まっていない者
・噂を聞いて来て、空き家に“とりあえず住み着いた”者
「……“勝手に住み着いた人”って、字面が強いわね」
フィリアが苦笑すると、文官も困ったように笑った。
「悪意はありません。大半が『ここなら働けそうだ』と考えて来た人たちです」
「うん、それは分かってる」
問題は――
人が悪いかどうかではなく、配置が合っているかどうかだ。
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■人材の再配置
フィリアは地図を広げ、指でなぞる。
「じゃあ、不足してるところから埋めましょう」
まず目を向けたのは――
・薪の供給
・簡易住宅の維持補修
・水路・井戸の管理
・農地の拡張と補助作業
「木工に集中しすぎて、生活基盤が置いてきぼりだったわね」
ガルドが頷く。
「職人は増えたが、それを支える仕事が足らん」
そこで――
・木工見習いの一部を「建築補助」に回す
・農業経験者を優先的に畑と開墾へ
・体力のある単身者を薪・水路班へ
・高齢者や手先の器用な者を倉庫管理や検品へ
「“全員が最前線で稼ぐ”必要はないのよね」
「回る仕組みがあれば、全体が強くなるな」
配置替えは強制ではなく、面談形式で行った。
意外にも不満は少なかった。
「役割がはっきりした方が助かる」
「何をすればいいか分かるのはありがたい」
そんな声が多かった。
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■学校の配置を決める
次に決めたのは、寺子屋――いや、もう学校と呼ぶべき施設だ。
「今建築中の一ヶ所に纏めよう」
地図には、三つの村が大きく丸で囲まれている。
「この三点の中心付近のみにしましょう」
文官が目を丸くした。
「歩いて通える距離だし、教育人員も余っていないから!」
・子供
・大人
・移住者
誰もが“生活のついで”に学べる位置。
「教育は特別なものじゃなくて、日常に溶け込ませたいの」
ガルドは静かに感心したように言った。
「……無理なく、長く続く配置か」
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■しばらく、様子を見る
再配置と学校計画を終えたあと、フィリアは椅子に深く座り直した。
「……あとは、少し様子見ね」
すぐに新しい施策を打ち続けると、現場が疲弊する。
・人が配置に慣れるか
・生活に不満が出ないか
・思わぬ問題が浮上しないか
「出てきた問題を、潰していきましょう」
文官たちは深く頷いた。
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■砂糖生産の現状
最後に確認したのは――砂糖。
「生産量は?」
「徐々に、ですが確実に増えています」
甜菜の処理、精製、乾燥。
どれも人手と慣れが必要だが、流れは安定し始めていた。
「出荷は……もう少し待ちましょう」
今は内部需要と備蓄を優先。
「焦らなくていい。続く形を作るのが先よ」
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夜。
執務室を出たフィリアは、領地を見渡した。
灯りが増えた。
人の気配がある。
騒がしいが――崩れてはいない。
「……大丈夫」
呟いたその声は、自分自身への確認だった。
この領地は、まだ成長の途中。
そして――ちゃんと、呼吸を始めていた。
次に問題が起きたら、また考えればいい。
そう思いながら、フィリアは静かに夜道を歩いた。




