集まれ職人!
グラットの紹介で集まった職人たちを受け入れた翌朝。
執務室では領主のガルドと文官たちが頭を抱えていた。
「フィリア様……非常に言いにくいのですが……」
「はい?」
文官の一人が青ざめた顔で書類を差し出す。
「どうやら……昨日の段階で、領内の人口が“正確に何人なのか”把握できておりません」
「えっ!? 人口って普通すぐ分かるよね?」
フィリアの素朴な疑問にガルドが苦い顔をする。
「本来ならそうなのだが。。。元々この領地は“人がいなさすぎた”ため、詳細な戸籍管理が極めて曖昧なのです。じいじも放置しておりましたし……」
「放置!?」
「はい。ですが、そこへ急に二十名以上が移住してきたことで……村長たちも混乱しておりまして……」
文官が震える声で言った。
「昨日だけで、三つの村から“新しい人が勝手に住み始めている!”という報告が……」
「勝手に!? いや、悪気ないよね!? 仕事を求めて来ただけだよね!?」
「ですが、空き家の鍵がそもそも管理されておらず……住んでいた家族が『あれ? うちの納屋に知らない大工が寝てるんだけど』という苦情も……」
「それは……ごめんなさい案件……!」
フィリアは頭を抱えた。
◆
ガルドは深呼吸して言う。
「フィリア様。ここで提案がございます」
「なんでしょう!」
「領地全体で“人口一斉調査”を行いましょう。世帯数、人数、年齢、職、持ち家か空き家かを確認し、正式な戸籍を作り直すのです」
「そんな大規模なもの、できるかな……?」
不安げなフィリアに対し、文官が胸を叩いた。
「いまのフィリア様の領地なら、むしろ絶好のタイミングです! 職人たちが入る前に基盤を固めてしまえば、後が楽になります!」
ガルドも続く。
「このまま人口が増えると、住居、薪、食料、水、道路……すべての管理が崩壊しまするな。今が正念場です」
「……わかりました! やります!!」
拳を握るフィリア。
◆
こうして翌朝。
領地の全村へ、封緘使による文書が緊急配布された。
≪至急:人口調査実施≫
≪各家族は住民の記入をお願いします≫
≪移住者は必ず受付に申告すること≫
領民はざわついた。
「いったい何が始まるんだ……?」
「まさか税が上がるんじゃ……?」
「いや、むしろ仕事が増えてるし良い方向じゃないか?」
「新しい職人が本当に来てるらしいぞ!」
噂は瞬く間に広がり、逆に村人たちの目つきは「ちょっと期待混じり」になっていった。
◆
そしてその日の午後。
職人たちを前に、フィリアは宣言する。
「これから領地を大きくするために、まず“みんなが安心して住める場所づくり”をします!そのために……人口調査をさせてください!」
ざわ……と人々が騒めく。
だが、グラットが一歩前に出て言った。
「安心しな。こういうのはどの領地でもやることだ。むしろこれをやらん領地は伸びねぇ」
職人たちはそれで一気に納得した。
「なら協力するよ!」
「フィリア様に言われちゃ断れねぇな!」
「子ども連れてくから記入頼むな!」
次々と声があがり、フィリアは胸をなでおろす。
◆
夜。
フィリアは文官たちと、山積みになった“住民票の紙束”を前にポツリと呟いた。
「……これは、寝られないかもしれないね」
文官たちの目が死んだ魚になった。
「フィリア様……これは数百枚どころでは……」
「明日にはもっと増えます……」
「……たぶん千人超えます……」
「え……千……?」
フィリアは震えた。
(そんなに……いたの!?というか……そんなに増えたの!?)
グラットだけが愉快そうに笑っている。
「はっはっは! 領地開拓ってのはな、こういう地味で大変な仕事が一番面白ぇんだよ」
こうして――
領地初の「人口総調査」が幕を開けたのだった。




