赤ちゃん、初めての外出!?乳母車は戦場だった
今日の私は、なぜか朝から落ち着かない。
なぜなら――
「フィリア、今日はお外に出てみましょうね〜♡」
と、母様がテンション高めに言ってきたからだ。
(え、外!? 赤ちゃん外出イベント!?)
前世では会社と家の往復だけだった私が、今世では“初のお散歩”である。なんか……感動だ。
でも問題が一つ。ミュネがめっちゃ張り切ってる。
「フィリア様のお散歩準備、完璧ですにゃ! 防風・防虫・防魔力漏れ対策もばっちり!!」
(最後のやつ必要!? 赤ちゃんの散歩だよね!?)
そしてミュネは白い尻尾をピンッと立てながら、特製乳母車を押してきた。
ゴゴゴゴゴ……
(いや、重厚感すごくない!?)
木製じゃない。金属フレーム+魔石+謎の紋章。
どう見ても“散歩用”じゃなくて“戦場で使う装甲車”である。
「フィリア、いっちょいくぞ〜!」
レオン兄様が勢いよく覗き込む。
その瞬間、乳母車の魔力結界が兄様を弾いた。
バシュッ!
「おわっ!? ま、また父上の結界だな……!」
(父様!!! 兄様が弾かれてるんだけど!!!)
父様は腕を組みながら満足そうに頷いていた。
「フィリアに近づける者は、より強くなければならん」
(いや、家庭内で試練を課すのやめて!?)
そんなこんなで、超ハイスペック乳母車に乗せられ、外へ出ることになった。
――そして庭に到着。
庭と言っても、さすが辺境伯家。
広い。とにかく広い。折角だから庭に植えて居る植物達を鑑定っと!日本で言うとハーブ?の様なものね。名前やら加工の仕方、効能も表示されてるのね。鑑定は便利!
「あら、フィリア。風が気持ちいいわね〜♡」
母様が楽しそうに乳母車を押す。ミュネはその横で尻尾を揺らしながら付き添い。
(おお……青空……草の匂い……!なんか、普通に癒される……!)
しかしその時だった。
ガサガサッ。
茂みが揺れ、何かが飛び出してきた。
「ぴぎゃあああああ!!!」
小さな鳥……いや、魔物っぽい鳥だった。
どう見ても逃げている。
その後ろを、大剣を担いだ兵士が走ってくる。
「ま、待てぇぇ!! その鳥は訓練用の逃走魔獣だ!!」
(訓練中にここ通るの!?赤ちゃんいるんだけど!?)
何か飛んでくる気配――ヤバいと思った瞬間。
バチィンッ!!
父様の結界が鳥を弾き飛ばした。
「ぎゃぴー!!」
鳥は安全に着地し、兵士が慌てて回収していった。
ミュネは深いため息をつく。
「まったく……お庭は訓練場じゃないですにゃ」
(いや、訓練場だよね絶対……)
レオン兄様は大笑いしている。
「ははっ、さすがフィリア!初外出で魔獣すら弾くとは!」
(いや私じゃなくて父様の結界ね!?)
こうして私の“初めてのお散歩”は――
・装甲乳母車
・兄様弾かれる
・魔獣飛んでくる
・植物鑑定してみる
・父様の結界で全部無事
という、とても賑やかなイベントになった。
最後にミュネが私に向かって小さく微笑む。
「……フィリア様の周りは今日も騒がしいですにゃ」
(ほんとだよ!!)
でも、なんだかんだ楽しかった。
赤ちゃんのくせに、外の空気を吸いながらそう思った。




