赤ちゃんだけど鑑定してみたい!
気づけば私は、この世界に来て数週間が経っていた。
赤ちゃんの身体にも慣れてきたけれど、寝返りは打てないし、言葉も話せない。
……いや、話せないのは当たり前なんだけどさ。
それでも――家族はとんでもなく優しい。
レオン兄様は毎日のように遊びに来てくれるし、ガルド父様は仕事で忙しいはずなのに、わざわざ寝顔を見に来て、
「たくましく育つんだぞ!」
と、なぜか戦士みたいなセリフを言って私の頬をつついて帰っていく。つつかれ過ぎてほっぺが鍛えられそう。
そして母様はというと……四六時中私を抱きしめている。いや、ほんとに四六時中。
お母様……好きだけど、抱きしめ過ぎです……!圧がすごい!
そんな溺愛まみれの私だけど、気になって仕方ないものがある。
――【鑑定】スキル。
使えるなら使ってみたい。
けど、赤ちゃんの脳みそでちゃんと動くのかどうか……。
(えいっ……鑑定!)
心の中で叫ぶと、視界にふわっと光が走る。
――対象を指定してください。
(対象?……じゃあ、自分で!)
――【フィリア・ローガル】
種族:人族
年齢:0歳(1ヶ月)
称号:転生者(特別処理中)
スキル:鑑定Lv1/アイテムボックス/魔力特盛り(調整不能)
(調整不能って何よ!? 絶対あの神様の適当設定のせいでしょ!)
叫びたいのに、赤ちゃんだから声が出ない。
出せるのは「ばぶぅ」か「くぅ〜」のみ。悔しい!
そんな私の視界に、ベッド脇を掃除しているミュネが入る。
ふわふわ揺れる白い尻尾が癒しパワー全開だ。
(ミュネを鑑定したら怒られそう……やめとこ……)
そう思った瞬間。
「……あれ?フィリア様、今一瞬……魔力が揺れましたにゃ?」
(バレた!?!?)
ミュネは首をかしげ、するどい猫目で私を見つめる。猫族の黄金色の瞳、怖可愛い。
「フィリア様……もしかして、魔力の発動……?」
ヤバい。普通の赤ちゃん、魔力使わないよね!?
隠したほうがいいの?ねえどうしたら!?
私は慌てて視線を逸らし、全力で赤ちゃん演技。
「ばっ……!!」
……自分でも驚くほど赤ちゃんっぽい声が出た。するとミュネは、急にふにゃっと微笑んだ。
「……まあ、フィリア様が特別なのは最初から分かっていましたにゃ。安心してください、ミュネは何も言いません」
(ミュネ……天使……?)
ミュネは毛布を直しながら、落ち着いた声で言う。
「ローガル家には“秘密”が多いのです。フィリア様も、そのひとつになるでしょうにゃ」
……秘密?レオン兄様や父様のこと?
ローガル家って、ただの辺境伯じゃないの?
ミュネはそれ以上言わず、しっぽをぴょこんと揺らして部屋を出て行った。
(気になる……!めちゃくちゃ気になる……!)
でも、赤ちゃんだから何もできない!
うう……のんびり生活、どこいったの……
そんなことを考えていたら、突然うとうとと眠気が襲ってきた。
(……この世界、思ったより大変そう……)
私はため息代わりに「くぅ〜」と変な声を出し、そのまま眠りについた。




