献上品と母上の逆襲!──国家機密 vs スイーツ魂
透明樹液板の研究が始まって一週間。
ついに――
色付き透明樹液板(試作品)数枚が完成した。
「姫様!こちら、厚みも色も揃った“上級品”です!」
「うわぁ……この青、宝石みたい……!」
光にかざすと淡い光を返し、まるでアクアマリンのようにきらめく。もちろん宝石ほどの輝きはないけれど、軽くて丈夫で、扱いやすい。職人や文官たちも感嘆の息を漏らした。
「これは……王家への献上品に十分値いたしますな」
「宝石加工師がいない我が領地でも、色付き樹液板なら“宝飾品風”に。」
「飾り窓やアクセサリーパネルにして献上すれば……!」
その場が明るい期待と興奮に包まれる。
私は胸を張った。
「それなら、王家に送る“試作セット”を作りましょう!透明・青・紅・緑、全部!!」
「おおっ!!」
みんなの士気が上がった――まではよかった。
だが、同じ時刻。
離れた調理場から……
ガァァァァァァァァーーッ!!
と叫び声が響いた。
「ひっ!?な、なに!?魔物でも出た!?」
試作組全員がビクッと振り返る。
慌てて調理場へ向かうと――
そこには、エプロン姿の母上とメイドのミュネ。
ふたりの前の調理台には……
・茶色く焦げた固まり
・白い粉が飛び散った山
・謎のドロドロした液体
・割れた皿
まさに“戦場”であった。
「母上……なに作ってるの?」
すると母上は振り返り、目をギラつかせながら叫んだ。
「見ておれ王都の奥方どもーーー!!田舎だの野暮だの言わせない!!私が最高のスイーツを作ってぎゃふんと言わせてやるのよ!!」
いつも優雅な母上が……完全に修羅と化していた。
ミュネさんは青ざめる。
「ひ、姫様……奥様が、砂糖作りの精製に成功した途端、王都で買った“高級デザートレシピ集”を見て再現を始めまして……」
「いや、再現ってレベルじゃないよね!?」
それもそのはず。
母上はこの数日、コツコツと甜菜から砂糖を作り続けていたのだ。
そして初めて“白砂糖もどき”に成功した瞬間、完全に火が付いてしまったらしい。
「母上!落ち着いて!!」
私が止めに入ろうとすると……
文官ルードさんが飛び込んできた。
「奥様!!砂糖の生成は……すでに国家機密に分類されております!!!勝手に高級菓子を作って広めるのは危険です!!」
「国家機密ぃっ!? このお菓子が!?」
母上が持ち上げたのは――中途半端に焦げた“謎のスポンジ状の何か”。
(これは……まだ国家機密には程遠い……)
文官たちは必死に止める。
「砂糖が一般化したら経済が動きます!他国の目もありますし、王家に報告前に流通させるのは危険なのです!!」
「で、ですが……私は王都の奥方を見返すために……!」
「奥様、それは理解しますが!!」
調理場は涙・砂糖・焦げ匂い・国家機密の叫びが飛び交う阿鼻叫喚。私はそっと母上の手を握った。
「母上……。まずは王家に砂糖と透明樹液板セットを届けて、領地の評価をしっかり上げてから……」
母上の目に涙が滲む。
「その後に……ゆっくりスイーツを極めましょう?」
母上はぐすっ、と鼻をすすり――
「……そ、そうね。まずは順番、ね……!」
やっと落ち着いた。
ミュネさんも肩から力が抜ける。
「ひ、姫様……ありがとうございます……。もう少しで奥様が“国家反逆スイーツ”を作るところでしたにゃ……」
そんなジャンル嫌だ……
■ 一方その頃、試作場では
完成した透明樹液板と彩色板が整えられ、
王家献上用の“透明樹液試作セット”案が決まりつつあった。
「これなら王家の研究班も興味を示すでしょう!」
「姫様、新しい産業が生まれますぞ!」
みんなが笑顔で板を磨いている。
私は深呼吸しつつ、心の中でつぶやいた。
(宝石もどきの透明板、そして砂糖……
この領地、一気に文明が進んでない?)
そして――。
次は母上の“安全なスイーツ開発編”が始まるのだ。
きっとまた修羅場になるんだろうけど……
それも、きっと楽しい。
――こうして、“透明板革命”と“母上の反逆スイーツ事件”で幕を閉じたのだった。




