偶然の天才、現る!?〜樹液が作った透明の板〜
試作場の朝は今日も慌ただしい。
木屑の舞う空気、木槌の音、祖父の薪作業の号令、そして――
私のアイテムボックスから飛び出す謎の試作品たち。
「姫様、この積木セット、形はこれでよろしいですか?」
「うん!そのサイズでお願い!子どもの手にちょうどいいはずだから!」
そんなやり取りをしている横で……
事件は起きた。
■ どしゃぁぁぁぁっ!
「わわっ!? す、すみません!!」
勢いよく転んだ文官のレイルさんが、作業台横に置いてあった 薄めたベトベトの木の樹液入りバケツ を、豪快に蹴り飛ばした。
樹液は床一面に広がり――
「うわぁぁ……べとべと……」
「これは……今日はもう作業になりませんな……」
完全に作業場が使えなくなってしまった。
樹液は、名前通りベトベトだ。乾くまではどうにもならないので、その日は別の作業へと切り替えることになった。みんなが散ってから、私は一度後ろを振り返った。
(あーあ……床、大丈夫かなぁ……)
まあ、掃除は乾いてからでいいか。そう思い、私はその場を後にした。
──そして翌朝。
■ 乾いた床に……何これ!?
「姫様!ちょっとこちらへ!!」
珍しく声を荒げたオルドさんに呼ばれ、作業場へ向かうと。
床の一角に――
ぺらん、つるん、透け透けの“板” が出来上がっていた。
「え、なにこれ……?」
「昨日の樹液が……乾いてこうなったようなのです」
よく見ると、床に広がった樹液が均一に固まり――
まるで“透明なガラス板”のようになっている。
「……ちょ、ちょっと触ってみていい?」
そっと持ち上げる。
――軽い。
――割れない。
――指で軽く押したら、ほんの少しだけしなる。
ガラスというより、アクリル板に近い。
「透明度、高い……」
「これは……なんとも珍しい素材が……!」
文官たちもざわめく。
「姫様、これ……商品になるのでは?」
「う、うん……これは正直、予想外……!」
前世で見た透明樹脂、アクリル、エポキシ……
あれに近い。けど天然物でこれが出来るなら、かなりの価値になるかもしれない。
(つまり……偶然の大発見!?)
祖父も腕を組みながら唸る。
「薪だけでなく、樹液も大きな価値になりそうじゃな……!」
「乾燥具合で硬さが変わりそうです。薄め方でも調整できるかもしれません」
文官のルードさんが冷静に分析する。
私の脳内では、すでにいろんな商品案が飛び交っていた。
・窓ガラス
・玩具の絵合わせパネル
・看板
・食器の類
・光を通す装飾品……
(ヤバい、これ……応用の宝庫じゃない?)
「でも姫様、ひとつだけ問題があります」
レイルさんが手を挙げた。
「昨日の転倒……偶然の厚み、偶然の広がり。再現性がまったくありません」
「あ、そうか……」
偶然の産物では商品としては困る。
だが私はニヤリとした。
「だからこそ、試す価値はあるんですよ!」
「おおっ!?」
「薄め方の割合、広げ方の方法、乾燥時間――全部条件を揃えれば、同じ板が作れるかもしれない!」
祖父が笑う。
「ふはは!お主、昨日まで“木工品の試作”しておったのに、今度は樹液の新素材か!」
「いや〜、こういうのは勢い大事だからね!」
(……ほんと、2歳児の行動じゃないけど)
■ 新素材“透明樹液板(仮)”の試作開始!
文官も職人も、一斉に目を輝かせ始めた。
「姫様、ぜひ研究を!」
「王都でも見たことのない素材です!」
「これは……領地の一大産業になるかも……!」
「姫様……転んだのが昨日でよかったですな」
「いや、それはわたしじゃないから!」
笑い声が作業場に広がる。
■ 今日から“透明板の研究チーム”も始動!
・樹液の薄め具合を変える
・乾燥速度を測る
・平らに広げる道具を作る
・剥がれやすい敷板の研究をする
やることは山ほどある。
「よし、まずは薄い板と厚い板、二種類を作ってみよう!」
「了解いたしました、姫様!」
「儂らは敷板の準備じゃ!」
「わたしは……とりあえず昨日の再現から!」
私はアイテムボックスから樹液を取り出し、作業台へ広げ始めた。
(まさかこんな偶然が起きるなんて。開拓って、本当に何が起こるかわからない!)
こうして、薪再開の裏で――
領地は新たな可能性「透明樹液板」という予想外の宝物を手に入れた。
そして今日も、2歳児(領主代理)を中心に研究と試作の日々が始まる。




