とりあえず作ってみればいいじゃない!
派遣文官三名と木工師のボルドさん、そして祖父と私。
ベトベトの木の加工場予定地に集まった私たちは、並べられた木製サンプル群を前に頭を抱えていた。
「……正直なところ、これを領外で売るのは難しい気がしますね」
と文官リーダーのルードさんが木の皿をひっくり返しながら言う。
「でしょうねぇ……この世界にも普通にありますものね、木皿って」
私も苦笑い。
最初の試作品として「木製の皿」「スプーン」「フォーク」「ナイフ」「コップ」を作ってみたものの、既視感ありすぎて“新商品”というより“量産品”だ。
「領内で多少は売れるかもしれませんが、王都では厳しいですね」
「うむ、儂らの村じゃ便利じゃと思うんじゃがなぁ」
祖父がぼやくが、需要と市場はまた別問題だ。
そもそも私、この世界の生活事情をほとんど知らないのだ。転生者なのに知識が生かせていない。前世はただの会社員だったし。
「……なら、逆に色々作って文官さん達に見てもらう方向はどうです?」
私は腕を組んで言った。
「ここにいる文官さん達って、なんだかんだ物知りじゃないですか。王都で流行りの物とか詳しいし!」
「確かに、幅広く見せてもらえるのは助かります」
「それに、ここから応用の可能性も見えるかもしれない」
文官たちが頷く。
よし、なら――。
「木製限定に囚われなくてもいいですよね。積木、木のパズル、木馬、木製カルタ……子ども向け玩具とか!」
「玩具は意外と需要があるかもしれませんな」
「特に安全な木製なら貴族層が好みそうです」
文官の反応も悪くない。
「あと……学用品もありかしら」
前世の記憶を辿る。
「定規、三角定規、分度器、コンパス……あとは筆箱、鉛筆……鉛筆って木工品でいいよね? あ、芯の部分は炭を固めたやつで代用できないかな?」
「芯……ですか? あ、煤を粘土で練り固める手法は聞いたことがあります」
「なんとかなりそうじゃのう」
祖父が楽しげに頷く。
「まあそこは“無理なら無理でいい”くらいの軽い気持ちで!今は方向性探しの時期だし、出来る範囲で試してみましょう!」
「おお、前向きですな姫様!」
「うむ、その心意気、儂は好きじゃぞ!」
なんか勢いづいてしまった。
しかし、ここで重要なことを忘れてはいけない。――“全部”私の特殊能力でやってしまうのはダメ。
私がアイテムボックスで高速加工すれば、確かに作れる。だけど、それをしてしまうと──。
(私がいなくなったら終わる……)
領地の未来が“私の能力依存”になるのは絶対に避けたい。だから決めた。
「試作品だけ私がアイテムボックスで作ります。量産は従来のやり方でお願いします」
みんなに宣言する。
「姫様……それはつまり……?」
「目安になる“完成品”だけを姫様が示し、職人たちに続きの工程を任せる、と」
「そうすれば依存は避けられるし、方向性も明確になりますね!」
「そういうことです!」
私が胸を張ると、場の空気が一気に明るくなった。
「ただ……それでも人手不足は深刻ですね」
「そこは文官さんにお願いしたいです!」
「はい?」
文官3名が揃ってこちらを見る。
「王都とかで“若手の木工師”を探してもらえませんか?ほら、修行先を探してる子とか、職が見つからない人とか。そういう人達を短期でも派遣してもらいたいんです!」
「なるほど……人材育成と雇用創出も兼ねる、と」
「姫様……想像以上に領主ムーブが上手い……!」
「任せてください。我々も面子にかけて協力いたします!」
こうして、私たちは“とりあえず全部作ってみる作戦”に動き出した。玩具も、学用品も、木工品も、全部まとめて試作!
新しい商品が産まれるかどうかは、まだわからない。だけど――。
やってみなきゃ始まらないよね!
こうして賑やかな試作の日々が幕を開けた。




