若き職人を求めて
「……とはいえ、やっぱり人手が足りませんねぇ」
領主邸の作業場に設けた簡易工房で、木工師のボルドさんが頭をかきむしった。
ベトベトの木は扱いが難しく、乾燥にも時間がかかるし、固まる過程の管理も繊細だ。
手を止めているのは、決してやる気がないからではない。
人手が、一桁足りないのだ。
「ベトベトの木は面白い素材だが……どうしても手が回らん。木取りだけでも数人は欲しいところだな」
じいじも腕を組み、うむとうなった。
「こいつは想像以上に手間のかかる素材でのぉ。わしと文官三人どうにもなりそうにないわい」
私も頷くしかなかった。
本当なら、私のアイテムボックス――
あれを使えば作業は何倍も速くなる。乾燥も、運搬も、整形も、小規模なら全部こなせる。
でも……
もし私がいなくなったら?
領地の産業がすべて止まってしまう。
それだけは絶対に避けたい。
「……だから、試作品だけは私がアイテムボックスを使って作ります」
そう宣言すると、皆がこちらを振り返った。
「お嬢が試作だけ?」
「ええ。試作品で形を示して、量産は皆でやるんです。私の作ったものを“正解”として、真似してもらう形なら、皆でも生産できます」
文官たちも顔を見合わせ、
「確かに……お嬢様がいなくても技術が残る形ですね」
と納得してくれた。
「だが、それでも木工師が一人というのはさすがに厳しいのぉ」
じいじのため息が作業場に落ちる。
そこを私は逃さなかった。
「そこで、文官さんに相談があります!」
三人の文官が一斉に姿勢を正す。
「王都や周辺都市で、腕はあるのに仕事が少ない若手の木工師さんはいませんか?もし可能なら、この領地に来てもらえないでしょうか?」
文官たちは目を丸くし、すぐさまメモを取り始めた。
「若手木工師……確かに王都でも仕事にあぶれている者がいます」
「手紙を出せば何人かは来るかもしれません」
「領地開拓の特別任務として募集すれば、希望者はもっと増えるはずです」
みるみる前向きな空気になっていく。
私は続けた。
「来てもらう以上、生活の保障や住居の準備も必要ですよね。その辺りは領地側で調整します。だから……お願いしたいんです」
三人の文官は顔を上げ、力強く頷いた。
「分かりました。王都に戻り次第、木工ギルドにも協力を要請します」
「募集文面はこちらで作成し、領主家の名で発布していただければ、多く集まるでしょう」
じいじも嬉しそうに笑った。
「おお、これで一気に道が開けたわい!」
ボルドさんも感動したように鼻をすすっている。
「お、お嬢様……わし、こんなに嬉しいのは久しぶりじゃ……。若い職人に技を伝えられるかもしれんでなぁ」
その姿に、胸が温かくなる。
――よし。
これで、ベトベトの木加工品の本格開発が始められる。
けれどその前に、私の役目がある。
試作品づくりだ。
私は作業台の前に立ち、ベトベトの木を手で触る。
ぬるっとした感触。
だけど、その中に確かな可能性がある。
「よし、私から始めるよ」
作業場に新しい風が吹いたように、全員が動き出した。
若手職人が来るまでの時間――これは準備期間。私の試作品で未来の産業の形を示すんだ。




