ローガル家の赤ちゃん、フィリアです
まぶしい光に慣れてくると、周りの景色が少しずつ目に入ってきた。どう見ても病院じゃない。
豪華で温かみのある、どこか中世ヨーロッパのような部屋。そして私の周りには、見知らぬ男女が優しく覗き込んでいた。
「ほら、フィリア。お父様だよ」
落ち着いた低い声。大きくて力強い手が、そっと私の頬に触れる。
この人が……辺境伯ガルド? 私の“父”なのね。
「かわいい……本当にかわいいわ……私がお母様よ〜」
そう言いながら抱き上げてくれる女性――セシリア。
柔らかく香る花の匂いと温もりに、思わず安心してしまった。
……なにこれ?
前世の私は、誰かに抱きしめられることなんてほとんどなかったのに。と言うか赤ちゃんの時の記憶なんか覚えてない。。。
「フィリア、元気に育つんだぞ」
もうひとり。金髪の男の子――レオンが満面の笑みで覗き込む。え、これがお兄ちゃん?何この美少年。
(……幸せ過ぎて逆に怖いんだけど。)
すると、ベッドの脇で耳がぴくっと動いた。
耳……?尻尾……!?猫……いや、猫じゃない。
白い耳と尻尾を持つ少女が、恭しく頭を下げていた。
「初めまして、フィリア様。猫族のミュネと申します。今日からお世話させていただきますにゃ」
……“にゃ”って言った。可愛い。
っていうか、猫族?ファンタジー度が一気に跳ね上がったんだけど。
ミュネは器用に尻尾を揺らしながら、布を直してくれる。
手つきが慣れていて、プロのメイドそのものだ。
(本当に異世界に転生しちゃったんだ……)
その時、頭の中に淡い光が走る。
ふわっと視界の端に、小さな文字が浮かぶ。
――【鑑定】スキルを取得しました。
――【アイテムボックス】スキルを取得しました。
(!? 今の……何……?)
「あら、フィリア。急に目がきらきらして……かわいいわ」
いやいや、今絶対かわいいどころの話じゃなかったから!!
これ絶対、あの適当な神様のせいよね!?
前世で散々だったからって、転生特典盛りすぎじゃない?
でも……この温もり、この家族の笑顔。ミュネの優しい声。
……もう少しだけ、この世界で生きてみてもいいかも。
そんなことを思いながら、私は再び小さくあくびをして眠りについた。




