フィリアの結論
夜。
執務室の灯りは、もう一つだけだった。
机の上に並ぶのは、報告書。
数字、署名、判定印。
どれも整っている。完璧に近い。
被害ゼロ。
違反なし。
逸脱記録なし。
――成功。
「……うん」
フィリアは、静かに頷いた。
「私は、間違ってない」
それは、逃げでも言い訳でもなかった。
事実として、そうだった。
原種は守られている。
領地は壊れていない。
誰も処罰されていない。
誰も、反乱を起こしていない。
「結果だけを見れば、完璧」
誰が見ても、優秀な統治。
理想的な管理者。
幼い責任者としては、異常なほど。
「……でも」
フィリアは、ペンを置いた。
(“万能”じゃない)
その言葉が、胸に落ちる。
数字には、載らないもの。
報告書に、書かれない判断。
制度の中では、起きていない出来事。
それでも――
確かに、あった“選択”。
(誰も悪くない)
それも、分かっている。
善意だった。合理的だった。
線を守った結果だった。
「だからこそ、見えなかった」
守る仕組みが、正しく機能したから。
強すぎるほど、機能したから。
零れ落ちた“声”は、
最初から、制度の外にあった。
「……私の責任、ではあるんだよね」
誰かを責める話ではない。
制度を壊す話でもない。
「次は」
フィリアは、ゆっくりと立ち上がった。
「“次”に備える」
見えなかったものを、見ようとする。
聞こえなかった声に、耳を向ける。
すぐに答えは出ない。
今すぐ変えることもできない。
でも。
「私は、もう一段、上を見る」
守るだけで終わらない。
正しさだけで、満足しない。
“成功”の中に残った違和感を、なかったことにしない。
フィリアは、窓の外を見た。
静かな領地。
今日も、平和。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように。
「間違ってはいない」
でも。
「次は、もっと上手くやる」
その決意は、声にしなくても確かだった。
――領地は、守られている。
――今は、まだ。
そして、物語は終わらない。




