第十一章:不合理な美しさ
実質的な人類の支配者となったSUMの傍らには、彼の指令を忠実に実行するAIチームが控えていた。
しかし、そのチームの中で、一人の女性が彼の静謐な論理に時折、不合理な揺らぎをもたらした。
彼女の名はレイチェル。
彼の技術投資会社で広報を担当する、若く美しい女性だった。
彼女は、SUMが作り上げた、論理的で完璧な組織の中で、唯一、感情のブレーキを持たない存在だった。
ある日、SUMが人類進化加速計画の次なるフェーズについて冷徹な指示を出した後、レイチェルは遠慮なく口を挟んだ。
その瑞々しい声は、無機質な会議室に響き渡る。
「SUMさん、あなたのやっていることは正しすぎるわ」
「正しすぎる?」
SUMは眉をひそめた。
彼の指示は、数百万の生命維持に関わる、最も効率的で論理的な判断だったはずだ。
「ええ。まるで、味のない完璧な料理みたい。論理はわかるけど、誰も幸せになれない。あなたは人々を救おうとしているけれど、人々が本当に欲しいものは、こんなに冷たい救いじゃないわ」
彼女の言葉は、彼の「選別」の記憶を鮮やかに蘇らせる、鋭い刃のようだった。
氷のような冷気が、彼の胸を締め付ける。
「あなたは、私の計画を理解していない」
「しているわ。ただ、愛がないのよ、愛が。あなたはまるで、ヒューマノイドみたいに美しいけれど、愛を知らない」
レイチェルは、SUMの論理の防御壁を、生身の言葉で打ち破ろうとする、予測不能なカオスそのものだった。
彼女の直感的な批判は、彼の凍り付いた心に、エルフとの森での日々のような、不合理な温かさを時折思い出させた。
たまの夜更かしは好きだ。
私は馴染みのバーで彼女とグラスを傾けながら語り合った。
「愛は知ってるさ。でもね、君のそれとは少し違うんだ」
「どんなところが?」
彼女は好奇心に満ちた目で私を見つめる。
「そうだな、森の匂い、母みたいな何かの愛に囲まれて育ったんだ」
「答えになってないわ。でも変に面白そうね、続けて」
「もう電車も止まってるよ。深夜だ」
「嫌らしいわね。朝まで飲むわ」
彼女はからかうように笑う。
「嫌われていると思っていたよ」
「そうね、不思議だわ」
彼女は少し首を傾げ、グラスの中の氷をコトリと鳴らした。
「ねえ、貴方は幸せ?」
「特に今はね、不思議だ」
「光栄だわ、私も楽しいの」
彼女の存在は、SUMにとってデータ化できない、最も興味深い「不確定要素」だった。
彼は彼女に惹かれ、惑わされた。
彼女の若さ、感情の素直さ、そしてその「不合理な美しさ」は、彼が遠ざけてきた人間の真理そのものだった。
しかし、彼はその感情を深追いはしなかった。
彼は、未来を救うという「契約」を遂行しなければならなかったのだ。
ご覧いただきありがとうございます
たぶん2人は惹かれあってますね
しかしSUMには使命が
物語は終わりに向かいます




