第8話「隠された魔導書」
「この魔導書……見覚えがある」
セレナは、帝国の古文書庫で偶然見つけた一冊の魔導書を手に取った。
表紙には、氷の紋章と“感情封印術式”の古代文字。
それは、彼女が幼い頃にかけられた魔法の原典だった。
「これが……私を“氷の皇女”にした術式の元?」
レオンは隣でページをめくりながら、眉をひそめた。
「この術式、感情を封じるだけじゃない。魔力の流れを“外部から制御”する構造になってる。つまり、君の魔力は……誰かに監視されていた可能性がある」
「……父よ。あの人は、私の力を恐れていた」
セレナの声は震えていた。
彼女の感情は、ただ封じられていたのではなく、支配されていたのかもしれない。
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その夜、レオンは魔導書の解析を進めながら、ふと自分の記憶に異変を感じた。
——講義室で教授が語る「支配と自由の構造」
——自分が書いた論文のタイトル「感情の政治的役割」
——そして、セレナの瞳と重なる“孤独な少女”の記憶
「……俺は、前世でも“感情”をテーマにしていたんだ」
記憶が少しずつ繋がり始めていた。
それは、セレナとの出会いが“偶然”ではなく、“必然”だったのではないかという予感。
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一方、クロードは密かに魔導士を集めていた。
「セレナが魔導書に触れたか。ならば、次は“記憶干渉”を強める」
彼は、レオンの記憶を揺さぶる魔法をさらに強化しようとしていた。
目的はただ一つ——セレナの心を揺らし、レオンとの絆を断ち切ること。
「君が彼を選んだのなら、俺はその選択を否定する。君の心は、俺のものだったはずだ」
クロードの瞳には、執着と焦燥が混ざっていた。
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翌朝、セレナはレオンにそっと語りかけた。
「……私、もう逃げない。この魔導書の真実を知って、私自身の魔法を取り戻す」
「俺も、君と一緒に向き合う。過去も、記憶も、全部」
二人は手を取り合い、魔導書の解析を進めることを決意した。
それは、セレナが“氷の皇女”ではなく、“一人の女性”として生きるための第一歩だった。
そして、レオンの記憶もまた、彼自身の“存在理由”を問い始めていた。