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  ダブルヒーローは他国の王子さま②


 まず最初に思いついたのは地震。

 地震大国の日本で育った者として、それらは良くも悪くも身近な発想。相手の足下を揺らす反面、己の足場だけは固めてしまえば動けるのはこちらである。


 相手の意表をつくことに成功し、称賛された。そういう使い方をした奴はいなかったらしい。


 土属性仲間もこぞって真似をした。

 開発当初はよかったんだが、風魔法の使い手は空中に浮かぶという対策を取ってきたため、この方法は盤石ではなくなった。


 しかし、魔法力を直接ぶつけるのではなく、周囲に影響を及ぼすことで発生する効果で、結果的に相手にダメージを与えるという攻撃方法を編み出したことで、戦闘訓練にはバリエーションが生まれた。

 ラルフレイルが進言したことで軍隊の演習にも取り入れられたらしく、俺は国王からこっそり報奨金を貰った。両親には相談し、将来に向けて貯金している。


 アクラムが言うところの死とは、たぶんアレのことだろう。

 土魔法の使いどころとされていた防御壁。

 俺はそれを攻撃対象を囲む形で四方に生成し、上から乾いた土を降らせてやった。泥でもよかったんだけど、そこは武士の情けである。武士いないけど。


 足元を泥にして動けなくしたり、そこから乾かして固めて、さらに動けなくしてみたり。

 ついでに天井も作って塞いでみた。

 窓もなく、隙間もなく。ピッタリ綺麗に。

 目指すは左官屋。これもまた、いい商売になるんじゃないかなってひそかに思ってたから。


 そうしたら、まあ、うん。空気穴が一切なかったもんだからさ。

 ほら、酸素がさ、うん。


 それまでは威勢よく文句を言っていたアクラムの声がだんだん途切れてきて、壁をボコボコ叩いていた音も弱くなってきて。みんながざわざわして、俺は気づいた。


 あ、酸欠。


 慌ててぶっ壊して、アクラムは治癒班にゆだねられた。


 医務室で土下座したよ。

 なにしろ相手は他国の王族。俺の首ひとつで済むレベルじゃないけど、他のひとは巻き込みたくなかった。

 ラルフレイルの同行も断り、単身で向かったことがよかったのかどうか。彼は俺を許した。おもしろい体験をした、方法を教えろと。

 べつにあれらは我が国の秘密でもなんでもない。

 人間を密閉空間に入れるなんて、誰もやったことがなかっただけだ。



「マッドサイエンティストの片鱗がすでに」

「誰がマッドサイエンティストだ」


 俺は興味のあることにしか邁進する気はない。光魔法にはたしかに興味はあるけど、例のヒロインとやらには興味の欠片もないぞ。


「もう。さっきのアクラムがヒロインを『おもしれー女』認定するみたいに、ユージーンさまもヒロインの光魔法を『興味深い』認定するんだってばー」

「物語の強制力ってやつか?」

「そう」


 あいかわらず、その主張はよくわからない。

 だいたい、そんなことを言い始めたらキリがないだろう。何が自分の考えで、何が決められたことなのか。その判断はどこでつけるんだ。

 そもそも俺は、妹に言われるまで、乙女ゲームの世界云々を知らなかったのだ。今だって半信半疑だし。


「注目を浴びているわよ。お二方」


 妹と言い争っていると、横から声をかけられた。

 聞き慣れた声に視線を向けると、そこには金色の髪が麗しいご令嬢が微笑みを浮かべて立っていた。ミレイユが小声で「まさか……」と呟く。

 まさかって、なにがだよ。

 と思いながら、俺は現れた令嬢に声をかけた。


「注目されているのだとすれば、それはきっとアクラムが居たからだろう。彼はどこにいても目立つ存在だ」

「それは否定しないけれど、先ほどのことは、どちらかといえば、あなたの言動こそ騒がれている要因じゃないかしら?」


 言って、くすりと笑う。

 おっとりとした物言い。どことなくこちらを責めるような棘を感じさせたのか、ミレイユが肩を震わせ縮こまった。


「アクラムさまに物怖じせず、妹を背に庇って対峙する姿は、見事でしたわよ。女性たちの視線をさぞ釘付けにしたことでしょう。次のお茶会ではきっと話題になりますわ。ユージーンさまのお相手に名乗りをあげるご令嬢が増えることでしょうね」

「ご冗談を」

「ねえ、あなたもそう思いませんこと? ミレイユさん」

「や、あの、その」


 妹が妙におどおどしている。

 令嬢は笑う。


「あらまあ、怖がらせてしまったのかしら。ひさしくお会いしておりませんでしたものね。忘れられてしまったのかしら」

「いえ、そのようなことはございません。失礼いたしました、クリスティーヌさま」


 彼女はクリスティーヌ・ラザフォード。うちの背後にいるラザフォード侯爵家のご令嬢である。

 俺と同じ年齢なので、妹とは三歳差ということになるか。領地に住んでいたときには何度か会ったことがあるはずだし、そのころはこんなに緊張していなかったと思うんだけど、どうしたんだかな。


 不思議に思っていると、クリスティーヌを呼ぶ声がした。どこかに友人を待たせているようだ。


「またお会いしましょう。そのときは、お話をしていただけると嬉しいわ、ミレイユさん」

「は、はひ!」


 美しい金髪をなびかせながら去っていく姿を見送っていると、隣の妹が俺の腕を引いた。


「た、た、たたた、たいへんだよおにいちゃん」

「どうした妹よ。大変なのはおまえのほうだ。おかしいぞ」

「悪役令嬢の登場だよー!」


 はい?



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