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4 ダブルヒーローは他国の王子さま①


 俺が前世でまったくもって全然モテなかったのは否定しない。

 忙しい母親に代わって家のことをやっていたし、ごくごくたまーに告白的なことをされても俺の優先順位は『まず妹』ってかんじだったので、お付き合い的なものには発展しなかったのだ。


 河野(かわの)の『か』は、(かあ)ちゃんの『か』って言われて、女子とはそういう意味で仲がよかった。

 恋愛的な意味ではなく、料理仲間というか。完全に女子枠。

 クリスマスが近づくと編み物教室とか、バレンタインには手作りチョコ講座とかやってたなあ。なつかしい。


 義理チョコというより友チョコ。お礼を兼ねてチョコを貰っていた。

 美由はといえば、近所に住んでいる姉っぽい立場の女の子と一緒に作って、「たまたま作ったからあげる」と言って、ふくれっ面をしながら渡してくれていた。


 その女の子は、はしもと食堂の看板娘。俺と同じ年の幼なじみで、箸本(はしもと)久美子(くみこ)という。

 うちとは逆の父子家庭でひとりっ子なもんだから、美由のことも可愛がってくれていた。

 彼女も毎年チョコはくれていて、それが本命だったらいいなあというのは、当時の俺の独りよがりな願望だったっけ。自分のことながら青臭いぜ。



 妹がひとりで慌てているなか、アクラムのほうはといえば、歩き始めたリリカ嬢の背を追い、数歩離れた場所を確保しつつ話しかけているようだ。


 すげえな、あの度胸。完全にナンパ男のそれじゃねえか。


 リリカ嬢のほうはといえば彼の声掛けを無視して、まっすぐどこかへ向かって歩いている。顔を見ようともしていない。清々しいまでもガン無視だ。

 脈ねえだろ、あれ。諦めろよ、アクラム。


 うーん、さすがに風紀を乱すというか、平民の女の子に粘着するのはどうかと思うので、俺はアクラムを止めるため建物の陰から出て、近づいていく。背後で妹が制止しているが、それはそれ、これはこれだろう。


「アクラム、何をしているんだ」

「おや、ユージーンじゃないか。咎められるようなことはしていないぞ」

「嫌がる女性に対して執拗に声をかけるのは、失礼な行為だろう。控えろよ」


 他国の王族にこういった物言いをするほうが失礼だし、俺が控えろよっていう気もするが、これは本人の望みである。

 身分を隠して通っているし、自国内ではなかなか難しい『友人との学校生活』を送りたいという願いもあり、口調は敢えて崩しているのだ。


「嫌がっているとは限らないじゃないか」

「嫌がっていないとも、限らないだろう?」

「ふむ、それも一理ある」

「あまり問題を起こされませんよう、願いますよ」


 小声でそう続けると、アクラムは肩をすくめる。

 芝居がかった仕草をしてもさまになる。さすがイケメンだ。


「ところで、後ろに控えている可愛らしいレディは、ご紹介いただけないのかい?」

「は?」

「ひっ!」


 俺が訝しんだと同時に、背後から小さな悲鳴。

 首を捻って振り返ると、ミレイユが縮こまって立っている。俺の背中に張り付くように身を隠し、そんな様子をおもしろがって、アクラムは顔を見ようと覗きこんできた。


「レディ。できればその顔を見せて欲しいんだけど、ダメかな?」

「いえいえいえいえ、滅相もないです。わたくしなぞ、アクラムさまのお目通りに適うなど、夢のまた夢でございます」

「震えてるのか? ますます可愛い。なあユージーン、紹介してくれよ」


 俺の背中に顔を押しつけて、必死に首を振っている感触が衣服越しに伝わってくる。

 ぎゅうっと掴んでいる制服が皺になっていそうだが、そんなことより妹の手が震えているほうが一大事である。


「お断りします」

「いいじゃないか。おまえの彼女じゃないだろ?」

「誰であろうと、嫌がる女性を差し出すような真似はしませんよ」

「見たところ、身内――、ラルフレイルがユージーンの妹が入学するって言ってたから、それかな?」

「あいつめ、余計なことを」


 ひとん()の情報、勝手に漏らすなよ。

 いや、まあ、貴族名鑑なるものに、家族構成が載っていたりもする国なので、調べようと思えば簡単ではあるんだが。


 家によっては、学院内で上流階級の令息に見初められるのは大歓迎かもしれないが、我が家の方針としては「本人の希望がすべて」だ。ここまで妹が拒否っている以上、兄としては許容できない。


「ついさっきまで他の女の尻を追いかけていたような奴に、大事な妹を紹介する奴がいると思うのかよ」


 ばっさり言い切ると、アクラムは破顔する。

 肩を揺らせて笑い、未だ顔を隠したままの妹に声をかけた。


「ユージーンの妹。おまえの兄上は、本当にいい男だよな。相手が誰であろうと、自分の信念は曲げない。俺はこいつのこういうところが好きなんだ。悪かったよ。だから、そんな兎みたいに震えないでくれないか。襲いたくなるだろう」

「おい、容赦しないぞ」

「やめろよ。おまえが本気を出したら、俺なんてあっというまに死の国だ」


 両手を挙げて降参のポーズ。ゆっくりと後退して距離を取る。

 アクラムが離れたことを察したか、ミレイユの気配も背中からすこし離れた。手はまだ上着を握ったままだが、皺になるほどのちからはない。


「じゃあね、ミレイユちゃん。こわーい兄上がいないときに、よかったらお話しようぜ」


 明るい捨て台詞を残して、アクラムは軽い足取りで去っていく。その背中を睨みつけていると、ミレイユがおそるおそる俺の隣に出てきた。


「すごい。アクラムンのチャラ男(りょく)、半端ない」

「アクラムン?」

「ファンのあいだで使われてる渾名」


 怪獣みたいな呼び方だな。


「でもお兄ちゃん、やっぱりあのユージーンさまなんだねえ。実感しちゃったよ」

「どういう意味だよ」

「だってさ、死の国に行っちゃうーって。それってお兄ちゃんがマジキチな魔法で相手を()っちゃうってことでしょ? こわすぎなんですけど」

「兄に対して失礼だなおまえ。たいしたことはやってないぞ。大袈裟なんだよアクラム」


 俺は魔術師だが、戦闘系ではない。研究するほうが好きなのだ。

 家系である土魔法は攻撃魔法としては扱われておらず、壁を作ったりする後方支援の位置。

 しかし俺は、その土魔法を攻撃として使えないかと考えた。

 べつに軍用転化とかじゃない。学院内の授業で戦闘訓練があるんだが、土属性は不遇の存在。みんな最初からあきらめているところがあったので、そこを打破してみようかなって思ったのだ。



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