3 ヒロインの登場①
妹曰くのバッドエンド回避。
俺個人としては「そうはならんやろ」と思っているのだが、「強制力を甘くみちゃダメだよお兄ちゃん!」と力説するので、改めてヒロインであるリリカの様子を見てみることにした。
会って話をするのはダメらしい。
物語の強制力とやらで、ヒロインに惹かれる可能性があるからなんだと。
なんだよそれ。光に惹かれて集まるとか、俺は虫か何かなのか?
侯爵家の後見を得た光魔法を操る平民、というのはかなりのパワーワードだが、大事なのは『光魔法』という部分だけである。同じぐらい光魔法を宿す貴族令嬢がいたら、たぶんみんなそちらを選ぶだろう。
差別というなかれ。
育ってきた環境というのは大事である。そこに大きな差があれば、ただ日常生活を送るというだけでも苦痛になると思う。
貴族ともなれば使用人も多く、そういった者たちが平民の女主人を敬うかっていうと、それだって難しい。
魔法といえば火水風土の四属性だ。
この世界の人間は基本的にこの四属性のいずれか、もしくは複数を持って生まれてくる。
血統によってどのちからを強く宿しているのかが変わり、うちのメイン属性は土。物体に干渉して形を変えることができるため、ご先祖さまは物づくりに従事していた。
ちなみにラザフォード侯爵家も土属性が強く、国内の農業方面に寄与したことでちからを得た家。オルファン家は、農業器具に始まり、流通のための運搬用品、収穫したものを保管するための保冷庫だとか、そういったことで協力し合い、仲良くやってきた歴史があるそうだ。
これだけを聞くと、土属性強ぇーって気がするけど、当たり前だけどそんなことはない。
煮炊きするためには火が必要だし、水がなければ人間も植物も生きてはいけない。
風は種子を飛ばすし、空気の対流を起こす。乾いた空気、湿り気を帯びた空気。風属性は気体に干渉するのだと思えば、これまた幅広いちからだろう。
国力に関わるため、貴族は魔力を大きくすることに余念がないし、婚姻によって血を強めてきた。
なんだったら国が主導して斡旋してきた。
言い方は悪いが品種改良。強い馬を作ったり、美味しい牛や豚を作るのと同じようなものだと思う。
そんな長きに渡る進化の結果、平民と貴族では魔力量に大きな差ができている。
平民の中にも稀にすごい魔力を持つ者が現れるが、それだってべつに突然変異ではなく、おそらく過去に貴族の血が混じっている先祖返りだったり、普通にどっかの貴族が平民に手をつけて子どもができたけど放置したという胸糞悪い話。クソ男は滅びろ。
話が逸れた。
光魔法についてだけど、四属性にプラスして希少な属性として確認されているのが、光と闇。
なんとなくイメージされるそのままに、光が正なら闇は邪。
そんなふうに思われがちだ。
だが実際問題、闇は大切だ。夜が訪れない世界など疲れるだけである。
それでも、明けない夜はないと称されるように、やはり光を求めてしまうもので。
だから光魔法は崇められる。
過去にはあやしい宗教の教祖になって国がまっぷたつに分かれて大変なことになり、光魔法の持ち主が激減する原因になったぐらい。
光魔法が崇められた最大の理由は、植物の成長を促すちからがあるからだ。
この国はなにかにつけて花を贈る風習がある。お祝いごとにもお悔やみごとにも、どちらにも花を贈る。
前世では、プロポーズに百本の薔薇を、みたいなやつがあったけど、この国では一輪の花を捧げることがもっとも至高なのだ。
そのため、この学院にも庭園がある。結構貴重な種類の花が栽培されていたりして、きちんと管理人がいて世話をしているぐらいだ。
光魔法は太陽光的な役割もあるが、そこは魔法と名がつくぐらいだから、不思議パワーも内包されていて。それが成長促進というわけ。
咲かせるのが難しい花だってなんのその。
それ以外にも環境によって育てられなかった樹木や野菜、果物など。そういったものにまで、光魔法は効果がある。実をつけるってことは、花が咲いて受粉という過程を踏んでいるわけだしな。
この世界が乙女ゲームで、そのタイトルが「貴女の胸に一輪の花を」と知って、国をあげた、このくどいほどの『花』推しに、なんだか妙に納得してしまった俺である。