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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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24 この世界における特異点①


 転生者あるあるとして、こちらでは既知の間柄であっても「はじめまして」の自己紹介を始めるのがデフォルトの進め方。

 だが今回は取りやめた。

 どう考えてもアリアーネ嬢は味方ではないし、こちらに友好的になるとも思えなかったからだ。

 俺ですらそう考えたぐらいだから、乙女ゲーム世界転生物語を知る女子たちは、こぞって文句を言いつらねる。


「アリアーネさんは、あれだよね、典型的な『乙女ゲーム世界にモブ転生しちゃった物語の主人公』ってかんじだよ」

「悪役令嬢に転生したから断罪エンドを変えようっていうのはよくあるけど、モブの子が、悪役令嬢を悪役令嬢たらしめるために陥れるって、あんまりないかもね」

「なあ、その元になったゲームには、アリアーネって子は出てこないのか?」


 俺の質問に、ミレイユとフェル姫が首をひねる。


「リリカを後見している侯爵家っていうのは出てくるけど、そこに娘がいるかどうかの情報はなかったかも」

「あーんなわかりやすい金髪縦ロールの子がいたら、ネタとしてプレイヤーの記憶に残りそうなもんだよね。だからいなかったんじゃないの?」

「アリアーネさん、入学したときは普通だったような気がする。いつのまにかあんな派手な髪型になってたけど」


 ミレイユが言うには、寮に入った当初は普通の女の子だったらしい。ゲーム世界だとわかってあちこち見回していたので、間違いないと断言する。


 共同生活を送るうちに、次第にひととなりが見えてくる。

 おとなしい子、目立つ子、率先して行動する子、あまりコミュニケーションを取らない子。

 アリアーネはいつしか一年女子を懐柔し、発言力を強めていったのだという。


「あのね、一年生の中ではね、くーお姉ちゃんを苦手にしてるひともいてね。今にして思うとそれって、アリアーネさんと仲がいい子たちが言ってたなって気がする。あたしもさ、ずっと領地にいたし、あんまり会ってなかったから誤解してたっていうか、洗脳されてたっていうか」


 寮長であり、侯爵令嬢でもあるくー子は、模範生として振舞っていたのだろう。

 精神面は同世代より上なだけあって、しっかりして見えるだろうし、一年生にとっては怖い先輩に感じられても不思議ではない。


「つまり、実際のクリスティーヌさんは優しいひとっぽいから、ちゃんと悪役令嬢になってくれないと物語が成立しないじゃないーってことかな」

「べつによくない? アリアーネさんには関係ないじゃん」

「でもあの子が、自分がこの物語の主人公だと思ってたとしたら? モブに転生した主人公が、攻略対象の誰かと結ばれるって、よくあるでしょ」

「あー、そっかー、そういうことかー」


 ミレイユとフェル姫が納得しているが、俺にはさっぱりわからない。

 すると説明をしてくれた。


 物語のモブ役だと思っていたら、じつは中心人物と化して、本来の作品でヒロインを好きになるはずの男性陣に好かれてしまって困っちゃうワタシ。

 みたいな話があって、アリアーネ嬢は、それだと思っているのだろう、と。

 前世を思い出した時期はわからないが、入学したばかりのころは普通だったそうなので、学校生活を送っているうちに、乙女ゲームの世界だと気づいたのではないだろうかと、ミレイユは推測していた。


 でもさ、それって、誰の視点に立って物語を見るのかで変わってこないか?

 ひとの数だけ物語があり、誰もが自分という人生の物語の主人公なのだ――とかいう、綺麗事みたいな言葉があるが、そういうこと。


 俺にとっては乙女ゲームだとか関係なく『前世で悔いを残した女の子と今度こそ結ばれたい物語』だし、ミレイユの立場だと『兄がヤンデレ化する攻略対象だったから滅亡エンドを回避したい物語』である。フェル姫もリリカ嬢も、それぞれの位置から見る物語があって、自身にとって良い結果――ハッピーエンドを目指して生きているのだ。


 そんなことを話していると、くー子とリリカ嬢、そしてラルフがやって来た。この三人はアリアーネ嬢の聴取に立ち会っていたのである。


「アリアーネ嬢は療養ということで、一度侯爵家へ戻ることになった。休学だな」

「そうか」

「せっかくの交流会だったが、滅茶苦茶になってしまったな」

「でも、悪いことばっかりでもないだろ。おまえの婚約問題は、ずっと中途半端だったし、噂だけが先行していた。アリアーネ嬢のおかげで、そのあたりがすっきりしたと思うぞ。怪我の功名ってやつだ」

「そういうものだろうか。私はこれから城へ赴き、父上に詫びてくるつもりだ。せっかく調整していたお披露目のスケジュールが狂ってしまったからな」

「おう、がんばれよー」

「おまえは他人事のように……」


 だが、ラルフの表情は明るい。アリアーネ嬢が悪役に徹したおかげで、こちらとしてはすべてが丸く収まったといえば、彼女に申し訳ないか。

 でも正直、休学という形で学院を去ってくれてよかったと思う。

 ミレイユたちの言うとおり、あの子が乙女ゲームのプレイ者だというのなら、これからも攻略対象に対してなんらかのアクションを起こす可能性があったわけだしな。



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