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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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  奇跡の百合と秘密の庭園③


「おい、これはいったい、どういう事態なんだ?」


 おろおろした声が聞こえて振り返ると、そこにはラルフがいた。

 ここは王家が管轄する庭なので、こいつはフリーパスで出入りできる。

 だが俺たちは違う。そもそも簡単に入口は開かないはずの場所。なんでか全員がテレポートしてるけど。


 さて、どう説明すべきか。

 ゲーム云々に触れずに、きちんと理屈の通った解答が出せる気がしない。


「ラルフ殿下」

「フェル、君までここにいるなんて……」

「不思議な話なのですが、聞いていただけますか?」

「なんだろう」

「ここは精霊の庭です」


 なに言ってんだこの子。


「それは、昔から君がよく言っていた、あの不思議な庭のことかい?」


 通じたぞ、おい。

 フェル姫の説明を聞くかぎり、ラルフに対しては『夢で見た場所』として、ゲームのあれこれを話していたという。


 高位レベルに達すると貰える称号に『精霊王』というものがある。

 精霊王というのはプリュイ王国における神さまの一人で、名前はルシャール。光を司る精霊で、回復系のアイテム作成を時短できるそうだ。


 光の精霊王にちからを借りる際、背景画面が、精霊の庭と呼ばれる場所に変わるんだが、その庭がここによく似ている。


「プリュイとローズメア、魔力の行使方法が違うのに昔から交流があることが不思議だったが、人智の及ばぬ神々の世界では繋がりがあったということか」

「そうかもしれません。ラルフ殿下、わたし、この庭では精霊魔法が行使できるようなのです」

「本当か?」

「はい。ですが、このことは秘密にしておこうと思います。精霊魔法が外の国でも使えるとプリュイの王が知れば、わたしはきっと連れ戻されてしまう」


 フェル姫が浮かない顔となった。ラルフが語気を強める。


「それは困る。ようやく一緒に居られるようになったんだ。私は二度と君をあちらの国に返すつもりはない。もし君が帰りたいと願うなら、閉じ込めて逃がさないようにしたいとすら思っている」


 なんかやばいことを言いだしたぞこいつ。

 そういや言ってたな。ラルフのバッドエンドでは、ヒロインを別荘に監禁するとかなんとか。


「ラルフくん、そういうのは女の子が怖がるだけだから、言わないほうがいいよー」


 くー子がにっこり笑って苦言を呈する。おっとり笑ってるけど、知ってる。これ、ものすごく怒ってるやつだ。

 伊達に子どものころから付き合っていない。ラルフもそのへんの機微は感じ取ったようで、「そ、そうだな、すまないフェル」と素直に謝罪した。


「ラルフレイル、こちらの妖精姫が奇跡の百合をもたらした」

「それは本当ですか、シャルル兄上、フェル」

「なんか、できちゃいましたね」


 ものすごく適当にフェル姫が言ったら、ラルフは驚くこともなく頷いた。それでいいのかよ。


「フェルはすごいんだ。さまざまなものを作り出すことができる。魔道具師のオルファン子爵家と、話が合うのではないかと常々思っていた」

「奇跡の百合を育てていくとして、株を増やしていくには光魔法は有効だけど、それってたぶん、この庭の中だけの話だと思うの」


 フェル姫が真面目な顔をして、話し始めた。


 自分が作るものは精霊力が影響する。

 奇跡の百合を作り出すことができたのも、おそらくこの庭が『精霊の庭』だから。

 この庭の中でなら株を増やして咲かせていくことはそう難しくはないだろうが、これを庭の外に持ち出し、ローズメア王国の土地に根付かせることができるのかどうかは、別問題だろう、と。


 たしかにな。植物の育成には土が大切だという。

 俺は農家ではないけれど、くー子の父親であるラザフォード侯爵は前世が農業関係者。肥料を含め、土壌を整えることに苦慮していた。


「そこはゆーちゃんの出番だよー」

「俺?」

「ゆーちゃんは土属性の魔術師でしょう? 子どものころ、お父さまの畑開発で、一緒に泥遊びしたじゃない。わたしは光魔法、ゆーちゃんは土魔法」

「え、あれってそういう意図があったのか?」

「はじめはただの偶然だったみたいだけどね。遊び終わった土を使った花壇で、すごーく綺麗に花が咲いたんですって。庭師が驚いてお父さまに報告してねー、そういう影響があるのかもーって話になったみたいだよ?」


 情報を伏せたのは、おそらく娘のため。

 俺の土魔法はともかくとして、光魔法は希少な属性だ。酷使しつづけた結果、魔力が枯渇するとか、そういった悪影響が出ないともかぎらない。

 子どものころは、ただでさえ魔力が安定しないのだ。そんな折に、光魔法の新たな活用方法を見出したからといって、「じゃあ試してみよう」とはならないだろう。


「なるほど。奇跡の百合を育てるための土作りってわけか。それはなかなか楽しい研究だな。ひとまずここで数を増やしつつ、光魔法に頼らずに咲かせる環境を模索するわけだ」

「では、僕はこの庭で奇跡の百合を保護しよう。絶やさぬよう努めよう。リリカ嬢、手伝ってくれるだろうか」

「よろこんでお手伝いさせていただきます」

「ラルフ、彼女が庭園に出入りできるよう、承認手続きを。妖精姫も、かな」

「わかりました」


 ふたりは連れ立ってどこかへ向かう。俺たちが知らない、王族しかできないような、そういう手続きがあるのだろう。

 リリカ嬢とフェル姫、ならびに我が妹はきゃいきゃい騒いでいる。


「よかったねー、庭師さんとのフラグが立ったよ」

「いえ、あれは単純に、奇跡の百合を育てるために、光魔法が必要というだけでしょう」

「でも、あのひとは光の精霊王ルシャールだよ。自分でも光属性あるんだから、それ以上に光魔法いらないでしょ」

「多いに越したことはないかと思いますし」

「もう、いいから攻略にかかろうよ。いけるってたぶん」

「ですが、もともと庭師さんはそういう対象ではないですし」


 そんなの関係ないから全力で落とせ、とけしかけるフェル姫と、いままで恋愛フラグは全力で折ってきたのでいまさら無理ですというリリカ嬢の攻防。

 男の俺から見たかぎり、シャルルさまも恋愛云々の意識はないように思うけど、これまで縁がなかっただけという気もする。無理に結婚しなくてもいいし、静かに穏やかに、長生きしてくれたらそれでいい。そんなスタンスで暮らしていると聞いているし、ガツガツいかなくてもいいんじゃないかなって思うけどな。


「外野の人間が、あれこれ口出しすることじゃないよねえ」


 くー子がのんびり言ったことがすべてだと思う。

 もう、仕方ないなあ……とため息をついて、三人娘を(さと)しに行った。



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