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  メインヒーローは王子さま③


 初等科から通う生徒たちにとっては当たり前の学校生活も、途中から編入してきた生徒にとってはそうではない。

 王立学院は伝統ある学び舎ではあるが、だからこそ古くからのしきたりや暗黙の了解で動いている部分も多く、いわゆる「わからないことがわからない」状態に陥ることも少なくはないだろう。


 姉妹・兄弟・親子

 名は違えど、前世でもそういった制度は聞いたことがある。地方の普通校に通っていた俺には縁のないものだが、名門私立校とか、海外の寄宿学校とか。そういうところにはきっとあるのだろう。


 ゲームにおいて平民ヒロインが組む『最初のバディ』として用意されているのは、大きな商会のお嬢さまであるナナカ・ランソン。くるりと巻いたくせ毛のショートカットが特徴の、元気系の友達キャラ。

 我が家と同じく成り上がり貴族で、庶民気質を持っているため、同じ目線でヒロインと話し合えるポジション。情報通で、「なんでも聞いて。調べてきてあげるよ」的な設定だそうだ。


 現在、ぼっち気味のヒロインを、ゲームの主人公らしい生活へ引き上げてあげたいと妹は俺に言った。


 ゲームのイベントが見たいーとか、そういう気持ちがないわけじゃないけど、ぼっちなのはかわいそうじゃん。ヒロイン自身が病んじゃうバッドエンドもあるし、それはそれで気の毒。


 とのこと。

 うんうん、俺の妹は優しいなあ。若干、中二病から抜け切れていないところはあるけど。


 頷いていると、ラルフが言った。


「早速、明日から始めよう。そうだな。朝礼の折にでも教師陣から説明させ、そこで二人一組を作ってもらい――」

「ダメ、それ絶対ダメ。そんなことを言ってくる教師は万死に値するよ、ねえお兄ちゃん!」

「ああ。それは悪手だラフル」

「何故だ。意に添わぬ相手と組まされるほうが苦痛だろう」


 不思議そうに言う王子に、俺と妹は切々と説いてやる。

 自分から声をかけることができる奴は、そもそも孤立なんてしない。

 声をあげることができないから、ますます孤立する悪循環を生むのだ。


「周囲が二人組を作っていくなか声をかけられることもなく残され、余った者で組まされる状況をおまえはどう思うんだ」

「それは、辛いな」

「身分差の問題もあるだろう。高位貴族が下位と二人組を作ったところで、搾取の関係にならないと言い切れるか? 表向きはバディとして振舞い、そのじつ使用人のように扱う者が出る可能性は否めない」

「……わかった。たしかに無理がある。平等を謳っておきながら、その鬱屈をぶつけやすい状況を提示しては意味がないな。だが、そうなるとどうすればいいと思う?」


 そこで妹が手を挙げる。


「殿下。僭越ながら申し上げます」

「どうぞレディ」

「わたくしたちは皆、寮での共同生活となっております。まずはそちらで適用し、学内の事情についてもフォローする体制を取るのはいかがでしょうか」

「俺も賛成。基本的に二人部屋だろ? いきなり一対一は厳しいだろうし、面倒を見る側だってはじめてなんだから、二対二で開始するのはどうだ? どういう組み合わせにするのかは、寮長を含め最上級生が采配する。これはこれで結構大変な任務だと思うし、ひとの配置を考えるのは今後の仕事に役立つはずだ」

「なるほど。俺たち最上級生も責任重大というわけか」

「目安箱みたいなのも欲しいです」

「めやすばこ?」


 妹の弁にラルフの眉根が寄った。俺は補足する。


「色んな施設の入口に、匿名で意見を投じられる箱を置いているだろう。あれだよ」

「ああ、おまえが進言して置いたあれか。たしかに不具合が生じた場合、陳情できる手段があったほうがいいな」


 いわゆる、お客さまの声ってやつだ。

 食堂や購買所などに気軽に意見を述べられる箱を設置した。

 クレームだけではなく、良かった点も積極的に取り上げてほしいので、最初は生徒会の面々がサクラとなって書いた部分もある。それらを張り出したことで、「ああいうのも書いてもいいんだ」と刺激されたのか、ポツポツと投書があがるようになった。他人を褒めるのも大事なことだ。


「あれは実績もあるし、生徒たちにも馴染みがある。なにか問題が発生すれば対処してくれるとわかっているから、新しい制度にも取り組んでくれるかもしれないな」

「では」

「学長に話をして、まず寮で開始しよう。毎年、一定数の生徒は身体に影響をきたして休学するんだ。そのあたりのフォローができるかもしれない」



 こうして始動したバディ制度だが、校内において、どれほどの影響を及ぼしたのかはわからない。

 だが、寮の雰囲気はすこし変わったように思う。


 男子寮に関していえば、爵位を鼻にかけがちだったご令息が、意外と面倒見のよい奴だったことが判明。

 彼はひとりっ子で、兄弟がいなかった。ゆえに、兄貴として扱われた経験もなく、はじめて年下に頼られたことで『指導する』ことに目覚めたらしい。あれはよい変化だった。


 妹が言うには、「そのうち男女の交流会イベントがあるはず」とのこと。

 学校というよりは、これは寮としてのイベントらしい。卒業式典が最終結果ならば、この交流会イベントは進捗確認。その時点での好感度がわかるものになっているそうだ。


 恋愛シミュレーションゲームとして考えれば、予定通りに進んでいるのか、あるいは軌道修正が必要なのかを図る大切なイベントだろう。

 うーん。なんだかなあ。



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