プリュイ王国の妖精姫②
フェシリダーテ姫。
日本人名は、東幸美。
記憶する最後の年齢は二十二歳。
彼女を取り巻く世界は、乙女ゲームではなく、育成ゲームらしい。やはり前世でやりこんでいたゲームなんだと。タイトルは『わたしと幸せのアトリエ』
貴女の胸に一輪の花をというのが俺がいる乙女ゲームなのだが、同じゲーム会社から発売されている。
そのため、ラルフレイルの名前を聞いても「会社が同じだからリンクしている、気づいたひとがニヤリとするアレ」程度に思っていたそうで、ここまでがっつり絡んだ世界になるとは思っていなかったという。
「せっかく『あなは』世界に行けるなら、行くでしょ。リアルで見たいでしょ。もう学院の正門見ただけでテンション爆上がり」
「あー……」
ミレイユと同じタイプの女子だった。会わせたら話が盛り上がりそうだな。
「えっと、話の腰を折ってごめんね。姫さまは――」
「フェルでいいよ」
「うん。じゃあフェルちゃんは、ラルフくんのことは、どう思ってるのかな」
くー子が訊いたのは、俺も懸念していたことだ。
素直に惚れているラルフはともかく、この子は、なんというか、ラルフを攻略対象としか見ていない可能性がある。それはあまりにもラルフが気の毒だった。
「どうっていうのは、つまり、そのー」
するとフェル姫はもじもじと顔を赤らめた。
お? これは脈なしってわけじゃないのか?
「うん。男の子として好きなのかなーってことだよ」
ずばり、くー子が言った。
ここは任せよう。女同士のほうがいいはずだ。
「……本人いないし、転生のこともわかってくれてるから言うんだけど。わたしね、ゲームではラルフ派だったんだよね。正統派王子キャラだし。だからさ、子どものころに出会った『ローズメア王国のラルフレイル王子』にビックリして」
フェル姫が前世を思い出したのは、物心つくかつかないかのころだというので、俺やくー子と同じだろう。
彼女の場合、生育環境が悪くて、現実逃避というか、前世を『夢の世界』のように縋って暮らしていたという。
プリュイ王国は実力主義の国。
この場合における実力とは、武力ではなく精霊力。
いわゆる魔法とは異なる理で発動する精霊魔法を重要視しているので、男女関係なく、優れた術師を王に据えるのだ。
完全な実力重視ならいいんだが、やはり足の引っ張り合いは発生する。
成果物をかすめ取ろうとするのは当たり前。ごはんに毒を仕込まれたり、闇討ちされたり、なかなか殺伐としている。妖精とか精霊なんてメルヘンが吹き飛ぶお国柄だ。
フェル姫は、前世知識のおかげで、幼少期から成果をあげまくっており、それゆえに敵が多かった。
兄弟姉妹から疎まれ、ねちねち嫌み三昧だし、他の王子王女を擁立している勢力からは命を狙われかねない生活。
「もうね、そんな国、どーでもいいってなるじゃない。王さま? なりたくないわよ、そんなもん。だから、大人になったら国から出ようって決めてたんだけど、それもまた問題があってさー」
精霊魔法は他に類をみない能力なので、国外に持ち出されるのは困るらしい。
しょぼい能力しかない人物ならともかくとして、チート級の術師であるフェシリダーテを国から出して、その能力が使われてしまうのはまずいので、幽閉待ったなし。一生を飼い殺しにされる未来しか見えなかったとき、ラルフレイルとの縁談話が持ち上がった。
他国の王族と縁談なんて絶対に駄目だと断るつもりだったが、ローズメア王国では精霊魔法が発動できないとわかってきた。
あちらとこちらでは、魔法の互換性がないということを長々と検証して確定したので、「じゃあべつにいいよ」となった。フェシリダーテの兄弟姉妹は大歓迎。あいつがいなくなれば、自分が王位に近づける! というわけだ。
「ラルフ殿下は、わたしに精霊力を捨てさせることを申し訳なく思ってるみたいなんだけど、そもそも魔法なんてなくても人間生きていけるわけだし、なにが問題なのかわからない。あの国から逃げられるならそれだけで充分。お釣りがくるレベルで大感謝」
「そっかー。大変だったんだねって言ったら、失礼だけど、フェルちゃんが無事に生きてこられてよかったよ。毒を盛るとか、もう信じられない!」
くー子が憤慨している。
こいつは、食べ物を粗末にする輩を絶対に許さないウーマンだからな。さもありなん。
「うう、クリスティーヌさんがめっちゃいいひと。悪役令嬢なのに、いいひと」
「悪役令嬢」
「ごめんなさい! ゲームではそういう設定で」
「だいじょーぶだよう、ミユちゃんから聞いてるから」
「ミユちゃんっていうのが、ユージーンさまの妹さんなんですね。ゲームでは居なかったけど」
「らしいな」
ひさしぶりにその設定を耳にした。もう忘れかけていたけど、ゲームにおけるクリスティーヌは、ラルフレイルの婚約者を気取って、ヒロインに意地悪をする女なんだっけ。
「わたしがラルフくんの婚約者候補っていうのは、正式な婚約者を決めることを先延ばしにするための方便だったけど、それってたぶん、プリュイと交渉結果待ちだったんだねえ。フェルちゃんとの婚約を打診して、許可が出るまで待ってたんだと思う」
「そ、そう、なん、です、ね……」
フェル姫がまたもじもじしている。
ラルフとの話になると、急に乙女になる。普通に可愛い。
いや、俺の一番はくー子だけどな。ラルフがいつも可愛い可愛い言ってる気持ちがちょっとわかった。
「――ラルフ殿下にはずっと、待っていてほしいって言われてて。でもそれってリップサービスというか。そもそも、あなはのラルフレイルが顕現するとか、そんなスターシステム状態、それなんて二次創作? みたいなさ。夢みたいなものだから、いつ消えてもおかしくないなっていうふうにも思ってて」
「うん、そっか。わかるよー、その気持ち」
「クリスティーヌさんも、そんなふうに思うことが?」
「わたしの場合は相手はゆーちゃんだけどね」
「それ! そこんとこ詳しく。おふたりはどういうご関係なんですか」
急にぐわっと来た。この子、切り替えが早い。
えっとねえ。と、くー子がいつもの調子でのんびり経緯を説明する。
夢に見ていた世界、そこで一緒にいた子によく似た男の子と出会い、お互いがお互いを憶えていて、再会することになった話。
「かー! ありがとう世界!」
「どうしたの急に」
「あなはを知らないおふたりにご説明しますと、あのゲームにおけるユージーンさまとクリスティーヌの関係性は謎に包まれておりまして。ラルフレイルを含めた幼なじみ三角関係説が濃厚で。矢印がどう向いているのか、いくつか派閥があったんですが、わたしはユージーン×クリスティーヌだったんですよ。勝った。ユークリ界隈の皆さん聞いてますか、ガチでしたよ、公式万歳」
拳を握って天へ突き上げるフェル姫。
この子、おもしれー。
「えっとー、ありがとう? でいいのかなあ?」
「俺たちが礼を言うようなことじゃないだろ、放置一択だ」
「ゆーちゃんがそう言うなら、そうするけどお……」
「ああああ、その会話も尊いぃ。もっとください!」
外見はロリ系美少女、中身はガチオタ。
それがフェシリダーテさんです。




