メインヒーローは王子さま②
妹が言うには、第一王子は闇属性の魔法を宿しているせいで闇落ちしやすい。
ヒロインの光魔法によって闇が中和され、やがて彼女自身に惹かれ癒されるという設定らしい。
でもなあ――
「すでに闇魔法を制御する魔道具があってコントロール済みとか、そんなの想定外だよ。お兄ちゃんすごいね」
「半分以上、父さんの功績だよ。理論は俺だけど、実際にちゃんとした道具に仕上げたのは父さんだしな」
前世を自覚し、親子関係は密になった。
母が妹に手いっぱいになっているあいだ、俺は父さんと道具作製にのめりこんでいた。
属性魔法というゲーム的なワードは非常に心をくすぐられるわけで、子どもなりの発想であれこれ言うものを、父さんはおもしろがって具現化。
体内に有する魔力が多すぎて具合が悪くなる『魔力飽和』という病に対して、魔石をつけた装身具を身につけることで抑制する方法を考案。当時、闇魔法というやっかいな魔力をひそかに宿していた第一王子ラルフレイルは、ずっと病床についていたのだが、この魔道具により日常生活が送れるようになった。
ラザフォード侯爵家を通して俺と父親は王城へ行き、国王直々にお言葉を賜った。
王子とは同じ年だったこともあって友人関係となり、現在に至る。
一応、人前では臣下の立場を取っているが、爵位がどうのという意識がまだ少ないころに出会っていることもあり、普段はわりとざっくばらんな関係である。
生徒会用に割り当てられている部屋に到着。扉をノックして来訪を告げる。
中からラルフレイルの声が返ってきたので、俺は入室した。さっきまで威勢がよかった妹は、さすがにビビったのか俺の背中に隠れ、こっそり後をついてくる。
「悪いなラルフ、呼び出して」
「いや、書類も溜まっていたからちょうどいい。ところで背中に隠れているのが、おまえの可愛い妹君か?」
「ああ。ほら、ミレイユ。殿下にご挨拶しろよ」
「は、はじめてお目文字叶いましたこと、幸甚に存じます。わたくし、国家魔道具士オルファン子爵が娘、ミレイユ・オルファンと申します。いつも兄がお世話になっております」
ついさっきまで「お兄ちゃーん、こっちのエリアにあるカフェに行きたい。連れてってよー、あのね、あたしケーキ食べたーい」とねだっていたやつとは思えない変わりっぷりだ。
前世を思い出すまで十五年。貴族令嬢として暮らしていたわけだから、淑女としての礼節を弁えているとはいえ、中身を知っているとなんともいえない気持ちになるな。
呆れていると、ラルフレイルは楽しそうに笑った。
「ユージーンが可愛がっている、噂の妹君に会えて嬉しいよ。世話になっているのはむしろ私のほうだ。君の兄上はとても優秀だからね。執務も助けられている」
「お兄さまが殿下の執務を? たしか宰相閣下のご子息もいらっしゃるのでは?」
「よく知っているね。たしかに彼は切れ者の父親に似て優秀だが、ユージーンのそれはすこし性質が異なるんだ。君の兄上はとても応用力に優れていてね。いままでの常識にとらわれず、改革を推し進めることができる。私が会長に就いてから、随分と変わったんだよ。先生方にもお褒めの言葉を頂戴している」
前世チートだ。
ラルフに聞こえないぐらいの小声でミレイユが呟く。
失礼な。チートっていうほど、変わったことをしたつもりはないぞ。
これは単純に、数年とはいえ社会人を経験したからこその知見。中高生と張り合って偉ぶるつもりはない。
あとは、卒業してから気づく「あれがあったほうがよかったなあ」という後悔とか、そういうやつを取り入れているに過ぎない。
この学校、貴族の寄付がすごいので、予算には困らないのだ。うらやましい。
おかげで施設が充実したと思う。うちの両親もこの学院に通っていたが、当時と比較すれば段違いに質が向上しているといっていた。
食堂の営業時間延長は主に教師陣に喜ばれたと聞いているが、残業はほどほどにしようぜ先生たち。
「それで、頼まれていた件だが、生徒会としては問題ない」
「助かるよ」
「礼をいうのはむしろこちらだろう。もっと早く気づいて然るべきことだったと思う」
なんの話かといえば、妹の進言だ。
ゲーム内には、バディ制度というものがあるらしい。ようするに、上級生が下級生の面倒をみたりするアレだ。
とはいえ、ゲームでは学年や性別に関係なくバディを組める。
ランダムで発生するイベントで、バディを交代することもできるし、べつに最後までぼっちを貫いてもかまわない。
女子友達とバディを組めば男子の情報をゲットできるし、一緒に出掛けることで遭遇率を上げることができる。男子と組めば、必然的に一緒にいる時間が増える。
つまり意中の相手にバディを持ち掛け、そのままゴールインに持ち込むこともできれば、最後までキープ君として終わらせることも可、らしい。
女ってこわいな。