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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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15 ラザフォード侯爵家での食事会①


 ラザフォード侯爵家のタウンハウスは、いつ見ても素晴らしい。富を誇るようにゴテゴテしがちな貴族とは違い、厳かな風格を放つ邸だ。

 本当はもっとこぢんまりしたほうが好きなんだけどね、と言っていたが、侯爵家に相応しい家というのはやはりあるわけで。

 十侯爵の名に恥じない程度の威厳は必要だろう。周囲に軽んじられるわけにもいかないし。


 そんな侯爵邸では、本日食事会が開催される。

 場所は、広い敷地の一角に建てられた外国風建築の家屋と小さな庭園。

 などと言うと畏まって聞こえるが、要するに日本家屋と日本庭園だ。さすがに畳は無理だったらしいが、フローリングの一部を掘り炬燵にして、腰かけられる形にしてある。冬場は特注で作った座布団を床に敷くが、夏場の今はそのまま座ることが多い。


 これまた特注で作った障子を開け放ち、縁側の先にある庭が眺められる状態にしたフラットな居間に通された俺たち。

 こういったスタイルをはじめて見たであろうアルケット兄妹は、入口近くで立ち止まり部屋を見回している。ミレイユは友人の手を引き我がもの顔で説明しているが、おまえここが他人の家だってわかってんのかよ。


 ミレイユの友人であるパッセラ嬢。その双子の兄だというパジェット。

 ふわっとしたくせ毛の赤髪、一年坊主らしい子どもっぽさが表情から見て取れる。騎士志望というだけのことはあり、半袖から覗く腕は筋肉質だ。


 はじめての場所を訪れ、チラリと周囲に走らせる視線は好印象。

 あれは侯爵家がどれほどのものか見定めてやろうという下卑たものではなく、警護をするうえでの状況確認だろう。


 窓の大きさや扉の位置、壁際になにがあるのか、どこかに誰かが隠れられるような場所はないか、死角となる場所はないのかなどなど。

 俺のような素人にもわかってしまうあたり、まだ甘っちょろい騎士のヒヨコではあるのだろうが、侯爵家の護衛さんたちは微笑ましいものを見るような眼差しを向けている。がんばれ若人よ、といったところか。


「いらっしゃいませ、ようこそお出でくださいました」


 やや堅苦しい『お客さま用』の言葉で現れたのは、本日の主催者であるクリスティーヌ・ラザフォード。父親である侯爵の姿は見えないが、おそらく我が家の父と商談でもしているのだろう。

 そのかわりというわけでもなかろうが、彼女の隣には少年が控えている。

 金髪に青い瞳、幼いながら整った顔立ちをしている美少年は、クリスティーヌに続いて軽く頭を下げた。


「ようこそ、わがやへ。わたしはミカエロ・ラザフォードともうします。いご、おみしりおきを」


 棒読みだ。ものすごく棒読みだ。

 隣でくー子は笑いを抑えているが、空気を読まない我が妹ミレイユは、遠慮なく少年を指して友人へ紹介する。


「あの子はね、クリスお姉さまの弟のミカエロくんだよ。初々しいよねえ、七歳児」

「あなたはボクよりずっと年上のくせに、礼儀がなっていないですよね」

「なにをー、失礼な」

「しつれいなのはあなたです」


 ミレイユには妙に辛辣なこの少年は、さっき妹が言ったようにラザフォード侯爵家の長男、くー子の弟。前世ではひとりっ子だったくー子は、今年で七歳になる弟を大層可愛がっている。侯爵家としても待望の後継ぎであり、それはそれは大事にされているご子息だ。

 表立っては言っていないが、姉の婚約者でもある俺のことも慕ってくれており、妹しかいなかった俺もこそばゆい気持ちでいるが、どうもミレイユとの相性はよろしくないらしい。紳士たれと教育され育っているミカエロが、唯一冷たくあしらうのがミレイユなのである。


「まあまあ、ふたりとも。じゃれあうのはあとにしなさいな」

「じゃれてなどいません、姉上」

「そうだよくーお姉ちゃん。この生意気なちびっこに教育を施してるんだよ」

「姉上にしつれいな物言いをするなミレイユ」

「年上のレディを呼び捨てにするなんて、礼儀知らずなちびっこだね、ミカくんは」

「あなたが年上? わらわせてくれますね」

「キー! ガキんちょめ!」


 七歳と同レベルで口喧嘩をする十五歳。

 兄として情けないぞ、妹よ。


 第一子より期間を空けて生まれた長男ということで、ミカエロは王都のタウンハウスで育てられている。そのため、領地で暮らしていたミレイユは「クリスティーヌに弟ができた」という事実を知っている程度で、あまり顔を合わすこともなくここまできた。学院へ通うために王都へ来て、ようやっとまともに対面したような状態だ。


 クリスティーヌが箸本久美子であることを知ったあと、ミレイユは彼女の弟についても驚愕の事実をくちにした。俺が乙女ゲームの攻略対象であるように、ミカエロもまた攻略対象なのだという。

 同じゲームではなく続編。十年後の世界を舞台にした『貴女の胸に一輪の花を2』における攻略対象のひとり、らしい。


 悪役令嬢として断罪された姉を持つミカエロは、常に無表情で冷徹な男として登場する。あの(・・)令嬢の弟ということで、ヒソヒソ噂をされながら生きてきたため、情緒が死んでいる。クールを通り越して氷だ。悪役令嬢ならぬ、悪役令息。

 慕っていた姉を失ったミカエロはこころを閉ざしており、誰も寄せ付けない男となっている。それを懐柔していくのが続編のヒロインだそうだ。



 続編やってないから、ざっとした情報しか知らないんだけどね、1の悪役令嬢の弟が攻略対象になって出てくるって話題になってた。

 あなはの攻略対象はバッドエンドで病むのがデフォだけど、ミカエロは病み状態からスタートするめずらしいキャラなの。デレると溺愛系のヒーローになるんだけど、だからこそヒロインがべつの男といい感じになると干渉してくるウザイ男にもなるんだってさ。


 バッドエンドだと、お兄ちゃんと同じく世界を滅ぼしちゃう系男子になるらしいよ。

 姉上大好きなシスコンだったのに、好きになったヒロインちゃんにも裏切られたら「こんな世界、壊れちゃえばいいんだ」になってね。

 ミカエロは魔術師ではないけど、侯爵子息っていう地位があるから、権力に物をいわせて国を崩壊させていくんだってさ。頭はいいからのし上がっていくけど、精神的にはぶっ壊れてる、独裁者タイプだね。サイコパスだよ。




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