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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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  ミレイユと攻略対象③


 椅子をひとつ増やしてもらって、パジェットも同じ席につく。


 休憩中の飲食は咎められていない。

 ま、当然だよね。とくにいまは夏だしさ、水分と塩分は補給しなきゃ倒れちゃうもん。

 制服を着たひとがコンビニで飲食してクレーム入れられちゃう話、前世ではたまに見かけたけど、がんばってお仕事しているひとは労わらないと。


 パジェットとはクラスも違うし授業もかぶらないしで、ゲームの知識程度しか知らなくて、どんなやつなのかなって思ってたけど、普通の男の子だった。

 放課後にはお腹が空いて、近所の店で買った焼きそばパンかじるような、そういうかんじの子。

 あたしたちが食べるお菓子程度じゃ腹は膨れないから、メニューからがっつり系のサンドイッチをふたつも頼んで、ガツガツ食べてた。

 ほえー。お兄ちゃんはインドア系なので、ここまで食欲旺盛じゃない。スポーツ系の部活やってる男子って、こんななのかもね。


「ジェツ、ミユが呆れてるわ。もうすこしお行儀よく食べられないわけ?」

「いいよいいよ、こういうのさ、見ているだけで気持ちがいい食べっぷりっていうんだろうね」


 前世、はしもと食堂のおじさんがよく言ってた。男子学生にはご飯を大盛りにするサービスをやってて、評判よかったらしい。

 くーお姉ちゃんも、こういう食べっぷりのいいひとは好きなんじゃないかな。

 今度のお食事会、セラちゃんは誘ってあるんだけど、パジェットは時間あるかな。よし、聞いてみよう。


「あの、パジェットさま。来週って時間あります? セラちゃんは誘ってあるんだけど、よければ一緒にどうかなーって思ってることがあって」

「もしかして、ラザフォード侯爵邸での食事会のことを言ってる?」

「うん。いっぱい食べるひとは、きっと喜ばれるよ。それにほら、我が家以外の男のひとの意見も欲しいと思うんだよね。目指すのは平民向けの大衆食堂だし」

「ラザフォード侯爵? セラがお呼ばれしたって言ってたやつか? 俺がそんなところへお邪魔してもいいのか。作法とか全然だぞ」

「騎士になりたいってひとが、なに言ってるのよ。いい機会だから、実践形式で学べば?」

「ラザフォードのおじさま、飾らない方だから、練習にはちょうどいいと思う!」


 中身、元日本人だしね。元気な若者、大好きだと思う。うちのお父さんもそうだけど。


「そうだな。迷惑でないなら是非、伺わせてもらう」

「そっかー、よかったー」

「でもビックリしたよ。来週って言うから、てっきりイリュージョン見物のほうかと思って」

「あー、それもセラちゃん誘ってるの。パジェットさまも一緒に行く?」

「へ!?」

「あ、他に約束あるなら無理には誘わないけど」


 だってあれは夏の大事なイベント。リリカがすでに誘っている可能性もあるんだよね。あぶないあぶない。


「そうだよね、一大イベントだもん。一緒に行きたいひととかいるかもだし」

「俺、モテねーからそういうのないよ。せいぜい男のダチと屋台をぶらつく程度のもんだぜ」

「じゃあ一緒に行く?」

「メンバーは?」

「うちのお兄ちゃ――お兄さまと、さっき言ったラザフォード侯爵家のクリスティーヌさま。確定しているのはそのふたりかな」

「……尻込みしたくなる面子だな」

「ジェツ、どうせ暇でしょ。護衛がわりに来なさいよ」

「どうせとか言うな、おまえだって暇なくせに」

「うっさい」


 この双子、見てるの楽しいなあ。

 パジェットってゲームでも明るい男の子だけど、ここまでざっくばらんな話し方はしてなかった。

 これは家族に対する態度だよね。違った面が見られる、裏設定を知った気分でちょっと優越感あるぞ。


「あたし、ずっと領地にいたから、こうして王都に来て、家族以外と一緒に見物するのはじめてなんだ。すっごく楽しみ!」

「そっか。俺たちは王都生まれ、王都育ちだし、案内は任せろ。おすすめの出店も教えてやるよ――って、そんな立ち食いみたい真似、失礼だよな」

「ぜーんぜん。そういうのも醍醐味でしょ」

「じゃあ、決まりな。俺、そろそろ行くわ。あんまりのんびりしていると、それこそサボリだって思われる」

「お仕事がんばってね、パジェットさま」

「おう。あのさ、そのパジェットさまってのはやめようぜ。普通でいいよ」


 あ、これはあれかな。名前の呼び方を変えられるランダムイベント!

 でも、だいたいはこっちから呼びかけてOKもらえるかどうか、みたいなかんじだったような?


 パジェットの呼び方は、さま、さん、くん、呼び捨て、髪形をいじったもの、炎属性にからめた渾名、いろいろあったけど、どうしようかなあ。


 ちょっと考えていると、向こうのほうから提示してきた。


「ジェツでいいよ。親しい奴はみんなそう呼ぶから。じゃあな、ミユ!」

「!?」


 明るく笑い、手を振って走っていった。

 なんだなんだ、あの陽キャっぷりは。すごいや、乙女ゲームの攻略対象キャラ。さらっと女の子を呼び捨てとかにするんだ、コミュ力すごい。距離の詰め方、はやい。ちょっぱやで来る。


「ごめんね、バカ兄で。あとで絞めとくから」

「だ、だだ、だいじょぶ、だいじょぶだから」

「……その顔で大丈夫とか言われても」


 やだな、そんなヘンな顔してるかなあたし。

 ただちょっと、同い年の男子に呼び捨てにされたのはじめてだから動揺してるだけだし、しかもミレイユじゃなくてミユ呼びだから、余計に動転してるだけだし、慣れてないだけだし、心臓ばっこんばっこんしてるのはビックリしただけだし、あたしチョロインじゃないし!!




たぶん顔が真っ赤になってます。

セラちゃんはこのあと、兄に苦言を呈することでしょう。

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