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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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  ミレイユと攻略対象②


 紅茶をおかわりして、焼き菓子セットを注文してふたりで分けていると、テーブルの近くに誰かが立った。

 店員さんかな? って思って見上げると、騎士隊の服を着た赤い髪の男の子がいた。


「なに黙って突っ立ってんのよ、仕事はどうしたのよ」

「小休憩に入ったとこ。サボってるわけじゃねえぞ」

「制服を着て休憩って、騎士隊ってそういうルーズなことが許されるの?」

「騎士ってわかるからこそ、治安維持に一役買ってるんだろうが」

「一理あるわね」

「だろ?」


 ポンポンと言葉の応酬がおこなわれる。

 おお、セラちゃんってお兄さんと話すとき、こんなかんじなんだ。

 ちょっとめずらしいものを見た気分で見守っていると、視線を感じたのかセラちゃんが憮然とした顔になる。


「なにをニヤニヤしているのかしら」

「やだなー、普通の顔だよ」


 あたしは顔をなんとか引き締めて、席を立ち、パジェットに対して礼を執る。


「こうしてお会いするのははじめてですわね。寮でパッセラさんと同室のミレイユ・オルファンと申します。妹君にはいつもお世話になっております」

「あんたがセラが言っていた噂の『ミユ』ちゃんか」

「ちょっと、ジェツ」

「あ。大変失礼しましたオルファン子爵令嬢。こちらこそ妹がお世話になっております。兄のパジェット・アルケットです」


 やべっ、みたいな顔をしたあと、格式ばったかんじで胸に手をあてて頭を軽く下げる。騎士の執る礼だ。

 ゲーム内では基本的にやんちゃ坊主っぽいキャラなんだけど、憧れの騎士になるためがんばっている少年でもある。そういうギャップがかっこいいんだよね。

 うむ、やっぱり攻略対象だけあって、こうして近くで見るとイケメンだなあ。

 彼の燃える魂を象徴しているような真紅の髪。セラちゃんと同じようにくせ毛気味の髪質だけど、短くしているからあんまり気にならない。むしろ、ちょっと跳ねたかんじが元気さを表現しているみたいで、キャラクターに沿ったデザインだなって思う。


「そのようにかしこまらないでくださいませ。わたくし普段は、セラさんとはもっとフランクにお話させていただいているの。よろしければ、パジェットさまも気取らずにいただけるとうれしいですわ」

「しかし――」

「まあ、この子がそう言うのならいいんじゃないの? っていうか、たぶん自分が猫かぶりするのに疲れるから言ってるのよ。気にしなくていいと思うわよ、ジェツ」

「そ、そんなんじゃないよ。ほら、子爵令嬢っていっても平民からの成り上がりだし、偉くてすごいのはお父さんたちだし、あたしなんて成績も可もなく不可もなくみたいなレベルで秀でたとこもないし、あっぱらぱーだなって自分でも思うし、お兄ちゃんにも『もうちょっとおとなっぽく振る舞えるようになれよ』ってこないだも言われたぐらいだし、憧れのお姉ちゃんみたいにはなれないけど、いつかはあたしもちょっとは可愛いって言われるぐらいにはなれるかなって思ってるもん」


 べらべら喋ったあとで、セラちゃんの呆れた目に気づいてハッとする。

 あ、やらかしたかも。こんなだからお兄ちゃんに怒られちゃうんだよな、あたし。


 こわごわとパジェットに目を向けると、こっちはポカーンとした顔であたしを見てた。

 やばい、これはあれだよね。『おもしれー女』枠のなかでも恋愛に発展しない系の『ヘンな子』で終わるタイプのやーつー。

 いやべつに攻略対象と恋愛する気ないからいいんだけど。ダメな子扱いは、それはそれでかなしいんだよ、乙女心は複雑なんだよ。


 しょんぼりした気持ちになってうつむいて、もういいからお菓子食べようかなって思ったとき、爆発するみたいにパジェットが笑った。

 ぷはって息を吐いて、ヒーヒー言いながら笑いはじめて、今度はあたしがポカーンってなった。


「ジェツ、女の子を笑うなんて失礼でしょ」

「や、ごめ、そういう意味で笑ったんじゃなくて」

「どんな意味があって笑うのよ」

「だってさ、セラが言ってた以上に、楽しい子だなって思ったら、こっちも楽しくなってきてさあ」


 セラちゃん、パジェットになに言ったのさ。あなたって本当に子爵令嬢なの? って、いつも呆れてるけど、そんなふうなことをお兄さんにも言ってたわけ? むー。


「えっと、本当に同じように扱っていいのなら遠慮しないけど、いいのか?」

「いいよ。いまさらっていうか、すっごく呆れたでしょ。あたし、こんななの。いつもはがんばってお嬢さまやってるけど、こっちのが地なの、変でしょ」

「いいや。俺は好き」

「!!」


 さ、ささささ、ささすがはこ、こうりゃくたいしょーだ、だよ、だよねね。あは、あは、あはははは!!


 お貴族さまの誉め言葉は、挨拶と礼儀なので、領地の園遊会では社交辞令としてスルーしてたけど、こういうの、あたしは慣れてないのだ。

 前世でも、男の子と付き合ったこととかないし、あたしの理想はお兄ちゃんだったから、クラスの男子にも興味なかったし。パジェットのことだって、いち攻略対象としか見てなかったから、ゲームでヒロインにかける好意の言葉とは違うものを聞かされると心臓に悪い。しかも向けられる対象があたし。


 あたしはヒロインを自分に重ねて萌えるタイプじゃなかったんだけど、いわゆる夢女子ってひとたちは、こういうのたまらないのかもだね。ちょっとだけ気持ちわかったかも。

 パジェットは特別推しじゃなかったけど、そういうキャラにこんなこと言われただけで動転しちゃうあたしってどうなんだろう。

 えーこれが『チョロイン』ってやつなの? あたしべつにヒロインじゃないけどー。


 褒められなれてなくて、顔がどんどん赤くなる。

 あつ、あっつい。なにこれ、あっつい。


「あの、ありがとう。えとね、あたし、そういうふうに男の子に言われたのはじめてだから、えっと、気をつかってくれて、ありがとう。お世辞でもうれしい」


 乙女ゲームに出てくるキャラクターは、軒並みイケメンだしスパダリ要素を持っているもの。平民の男の子だって、女の子にかるーくそんなことを言えてしまう世界なのだ。勘違いとかしないよ美由ちゃんは。うん。


 でも恥ずかし嬉しいのは本当だから、きちんと御礼は言うのだ。えへへ。

 なんだかしまらない笑いが出てしまう。

 えへへへ。もじもじだってしちゃうのだ、えへへへ。


「……お、おう。で、でででも、べべべつに、お世辞、とかじゃ、なく、その」


 パジェットにもあたしの恥ずかしさが移ってしまったのか、言葉がどもっている。

 いかんいかん、もっと毅然としないとね、うん。えへへ。


「な、なんか! きょうは、暑いな!!」

「そ、そ、そうだよ、ね。夏だもんね、あついね!」

「なー!」

「ねー」


 あはは、えへへ。


 あたしとパジェットがふたりして「あついあつい」言ってる傍らで、セラちゃんはやっぱり呆れた顔をしてクッキーをかじっていた。

 ちょっと全部食べちゃダメだかんね、あたしのも残しといてよ!




妹視点、もう1話つづきます。

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