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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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13 リリカの謎行動ふたたび①


 王宮への行き帰りの道すがら、馬車の窓からリリカ嬢をよく見かける。友人のナナカ嬢と一緒というわけではなく、いつもひとりだ。

 不用心だなと思わなくもないが、彼女は一般人。貴族の後見を受けてはいるが、ただそれだけだし、平気といえばそうなのか。


 俺たちのような子爵家でも誘拐を懸念し、護衛がつくことが多い。それなりの年齢になった男はともかく、女性がひとりで行動することは通常ありえないのだ。

 ミレイユだって護衛と一緒に外出しているはずだし、パッセラ嬢も大手商会のお嬢さまなので、護衛がついている。

 まあ、王都の目抜き通りだ。長期休暇期間に入ったことでひとの数も増え、乗じて軽犯罪も増える時期。定期的に騎士隊の見回りがなされているはずだから、そうそう騒ぎに巻き込まれることもなかろう。


 そんなふうに思いながら馬車は彼女を追い抜き、俺はオルファン家のタウンハウスへ帰宅した。

 今日はミレイユも自宅にいるようで、リビングでくつろいでいる。


「お兄ちゃん、おかえりー」

「ああ、ただいま」


 大きなソファに転がって本を読んでいる妹。

 おまえ、ちょっとは取り繕えよ、貴族令嬢としての矜持はどこへいったんだ。


 前世を思い出したせいか、すっかり庶民スタイルになってしまったミレイユだが、我が家のメイドは優秀である。妹のそんな姿も当たり前であるかのように接してくれる。

 考えてみればうちの場合、当主である父がアレだからなあ。


 偉ぶったところが一切なく、身分の垣根を越えて親しみやすい旦那さまと称されているため、俺やミレイユが多少貴族っぽくなくても、まあそういうものだろうと受け入れられている節があるのだ。ありがたいことである。


「今日は出かけてないんだな」

「そう毎日毎日遊び歩いてるわけじゃないよ」

「べつに叱ってるわけじゃないぞ。普段はあまり街中へ行くこともないんだし、休みのあいだに王都観光すればいいよ」

「行ってるよ、全部じゃないけど。ゲームに出てきたところは順番に攻めてるんだー」


 そう言ってあげた場所は、国立の公園や美術館、博物館、植物園、劇場などの有名どころ。

 待ち合わせスポットとして名高い場所はともかく、どこかの建物の前やら馬車駅やら、微妙なところもあった。なにが楽しいんだ、それ。


「わかってないなー、お兄ちゃんは。そこはね、ゲームのヒロインであるリリカが、攻略対象とデートで待ち合わせるところなの。あと、攻略対象が出現するスポットとかだから、約束してなくても行けば会えるかもしれないの」


 だからゲームではよく訪れる場所で、描かれている背景の場所を目の当たりにすることに意味があるのだと豪語した。

 ああ、そうですか。そこも聖地巡礼ですか。


 ふと思った。

 リリカ嬢をやたら見かける理由は、それなのだろうか。


 彼女はゲームに沿った行動をしている。

 あるいは、強制力とやらによって、行動させられている、のか?


 いかん、妹に毒されてきた。乙女ゲームのなかで生きているとか、そんなアホなことがあってたまるかよ。


 とはいえ、俺たちが元日本人であるように、リリカ嬢もまた転生者であってもおかしくはないんだよな。

 ミレイユが思い込んでいるように、ここが少女に人気のあった乙女ゲームの世界に酷似しているのであれば、同じように乙女ゲーム転生と信じている可能性も――、いやいや、さすがにそれはない、よな?


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「あー……、いや、ちょっと気になったというかなんというか」


 そこで俺は、自分がいま考えたことを妹に話してみる。リリカ嬢を城下町でよく見かけること。行き帰りに必ずといっていいほど見かけるのは、やはりなんらかの意図を感じずにはいられない。そして、その意図が『ゲームの攻略』であるのだとしたら、攻略対象との遭遇を求めてさまよっているのではないだろうか。ゾンビのごとく。


「…………」

「まあ、俺の考えすぎなんだろうけどさ」

「お兄ちゃん……」

「だよな、さすがに出来過ぎっていうか――」

「それアリだよ! そっか、そうだよ、リリカは転生者なんだよ!」

「自分から言い出しておいてなんだけど、早合点するなよ」


 ぶんぶんと首を横に振って、俺のほうに身を乗り出して、かぶりつきで妹は言う。


「あのね、乙女ゲーム転生ものには定石っていうものがあるの。語り手である主人公が悪役令嬢やモブキャラに転生していた場合、ゲームのヒロイン役の子も転生者なのね。そして、断罪回避のために動こうとする主人公を、そうはさせじと邪魔するのがヒロインポジのキャラクター。そう決まってるの」

「いや、ちょっと待てよ。ゲームの世界なんじゃなかったのか?」

「だからー、ゲームの世界に転生しちゃうっていう物語があって、それがいまなんだってばー」


 乙女ゲームの世界に転生したわけではなく、乙女ゲームの世界に転生した物語のなかに転生している。

 なんだその、箱の中にはまた箱がある的な構造は。


「ヒロインの子も転生者だった場合、ふたつパターンがあってね。我こそがヒロイン、世界はわたしのためにある! ってなって自分以外は人間扱いしないパターンと、もうひとつは、すごく真面目ないい子で、同じく転生者の主人公と仲良くなって、ゲームのこととか関係なくエンディングを迎えるパターン。リリカの子はどっちかなあ」

「こら、転生者の前提で話を進めるなよ」

「可能性はゼロじゃないでしょ」

「たとえば転生者だとしても、リリカ嬢の内にある子が、おまえのいう乙女ゲームを知っているか否か、という部分も大事だろう」


 例のゲームが、どれぐらいのユーザー数を誇ったゲームなのか、俺は知らないが、中にいる人間が把握しているとは限らないだろう。くー子は、美由がプレイしていたからタイトルぐらいは知っているが、内容までは知らないって言ってたし。


「んー。ねえ、お兄ちゃん。リリカがさ、ラルフレイル殿下にアプローチした形跡ってないの?」


 そう言われて思い出したのが、例のお弁当事件である。

 考えてみれば、弁当というアイテム自体が日本人的発想。ラルフが戸惑っていたように、普通の国民なら不思議に思うものなのだ。



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