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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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  夏休みの過ごし方②


 休みのあいだは王宮へ行って、例の図書を見せていただく。

 宮廷魔術師という職に対してとくに興味も関心もなかった俺だが、図書館へ日参していくうちに気になってきた。

 宮廷魔術師とは、王宮にこもって机上の理論でのみ物事を考える人種だと思っていたけど、そうともかぎらないようだ。


 部署が分かれていて、国家規模の仕事を専門に扱う部署もあれば、民間と協力して新しい魔術を考案して共有化していく部署もある。父さんが魔道具を作成する際にも協力体制を取ったりしていたらしい。

 民間の魔術師だと思ってたけど、あのひとたちのなかには、宮廷魔術師もいたようだ。知らなかった。

 それに、よく顔を見せていた常連の魔術師は俺の祖父ぐらいの年齢だったので、現役を引退したひとが道楽で手伝ってるんだとばかり思ってたよ。あのひとはローブ着てなかったから、民間のひとだと思うけど。


 日本であれば、高校卒業後は進学というパターンもあるが、この国では社交界に出る――ようするに就職するのが一般的だ。なにかを専門的に学ぶ研究職も、そういった機関に入職しておこなう。

 そもそも『大学』に値する場所がないのである。もっと学びたい場合は、他国へ留学するしか道がないあたり、ちょっと問題あるよなあ。


 就職もコネありきの世界。紹介制がほとんど。

 騎士隊は実力社会だけど、やはり家柄は確認される。武器を携帯する職業だからな、調べられるのは仕方がない。前世でも、身内に犯罪者がいたら警察官にはなれない、とか聞いたことあるし。


 だからこそ、就職には人脈が重要になってくるのだ。

 俺が宮廷魔術師に興味が湧いたところで、いままでそっち方面での人脈作りをしてこなかったので、コネがない。父さんは魔道具士だしな。


 コネという意味では、王族と知り合いという最大級のコネが俺にはあるのだが、それはさすがに卑怯すぎるし、その禁じ手を使って職に就こうものなら、最初から遠巻きにされること請け合いだろ。子爵家のくせに王家の笠をかぶって何様だよって、ヒソヒソされる未来しかみえない。


 うん。普通に志願して、学院経由で依頼する形かな。


 学院にはあらゆる就職情報が集まってくる。俺のようにコネなし生徒は、先生に相談すれば面接を受けられるようになっているのだ。

 二学期が始まれば、自然とそういう話になってくる。

 休暇のあいだに、いろいろ情報を集めよう。


 なにしろここは王宮で、宮廷魔術師の制服ともいえる黒ローブを着用しているひとの姿も多い。直接話を聞くのは憚られるが、どういった雰囲気なのかを把握することはできるだろう。ブラックな職場なら入職はせず、個人的に研究を進めればいいだけだし。


 研究本を堪能して書架へ戻し、他にめぼしいものはないか背表紙を眺めていたとき、声がかけられた。


「おや、キミはオルファンのとこの坊ちゃんじゃないか?」


 訝しげに振り返ると、好々爺といった雰囲気の高齢男性が立っていた。

 見覚えのあるその男性は、父さんの魔道具作成の現場によく来ていた人物。最後にあったのは随分と前のこと。学院へ入学後は寮に入って生活していたので、顔を合わす機会がなくなっていた。


「ご無沙汰しております」

「いやあ、あーんなにちいちゃかったのに成長したもんだ。いくつになったかね」

「十八です。今年、学院を卒業します」

「そうかそうか、もうそんな年か」


 フォッフォッフォッと笑うと、ゲホゲホと咳き込んだ。腰を折って苦しそうに喘いでいる。

 おいおい、大丈夫かよじいさん。


「よろしければ、あちらの机でゆっくりお話を聞かせていただけませんか? さきほど申したとおり私は卒業を控えておりますが、お恥ずかしながらまだ先の見通しが立っておりません。この若輩者に、人生の先輩としてご助言などいただければ幸甚でございます」

「うん、キミはいい男に成長したねえ。ライアンは根っこがガサツなぶん、どうにも対人関係に苦労しがちだが、うん、キミはそのあたりが上手い。よい素質だ」

「――恐縮です」


 じいさん、無理せず座れよ。

 という内容を、遠回しに、オブラートに包みまくって椅子に誘導したのは、バレバレだったらしい。


「いやいや、満点な回答じゃぞ。己を下げながら相手を上げ、場合によっては慇懃無礼にも聞こえる。これにより、受け取り手がどういった考え方の持ち主なのかも計れるじゃろうから、今後の対応を考えやすくなるということじゃな」

「……そこまで深くは考えておりませんでした」

「そこは減点。その意図はなかったとしても、あたかもそうであったかのように振る舞え。そこいらあたりは、キミの父上のほうが上手いのう。ライアンはハッタリ上等の男じゃ」

「肝に銘じます」


 じいさんは、今度はむせずに笑って、腰を伸ばしてサクサク歩きはじめた。

 おい、あれ演技だったのかよ。食えないじいさんだな。



 せっかくなので本当にしばらく会談した。進路に悩んでいるのは事実だし。


 遅まきながら、宮廷魔術師に興味が湧いてきたこと。

 しかし、そこを目指して勉強をしてきたわけでもないので、志願してよいものか躊躇いもあること。


 俺の吐露に対し、じいさんは王宮内外の仕事について、あれこれ教えてくれた。

 宮廷魔術師になったとて、そこから転職も可能であること。適性なしと判断されたら、上司判断によって異動することもあるので、ひとまずやりたいと思ったことはやればいいと、そう言ってくれた。


 じいさんの名前はドイルという。

 ガキのころは、ドルじいちゃんと呼んでいたことを思い出して謝罪すると、カラカラと笑った。


「気にするでない。ラザフォードんとこの嬢ちゃんと一緒にちょこまか動いておるのを見るのが、ワシの楽しみでもあったんじゃからのう。元気でやっとるのか」

「はい、クリスティーヌにも(おきな)と再会したことは伝えておきます」

「久方ぶりにオルファン邸へも足を運ばせてもらうか」

「ぜひ、お越しください」



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