ラルフレイルの恋愛事情②
他国の王女と縁組はめずらしいものではないし、環境や文化の違い程度ならともかく、これはもう『生きる』ことそのものにかかわる問題。
この世界では、魔法が使えないと暮らしが不便になる。
生活するための日用品の多くが魔力を使用して稼働するからだ。
あちらの王女を迎え入れることができないか、宮廷魔術師のあいだで研究もされているようだが、被験者がいないためお手上げ状態。
魔力がゼロの人間が存在しないし、人体から意図的に魔力を抜くなんてことは、非人道的すぎる所業。魔力がないということはつまり、命が尽きているのと同等と考えれば、どれだけやばいかわかるだろう。
かつては死刑を宣告された重犯罪者を使い、実験をしたとかなんとかいう話が残っている。闇に葬られたあやしい人体実験。
そのやべー実証実験があったからこそ、「魔力がどこまで減れば命にかかわるのか」ということもわかったわけなんだが、大きな声で言える話でもないよな。
そんな国家機密的な事情を俺やくー子が知っている理由は、例の魔術属性の抑制防具に絡んでいるからに他ならない。つまり、ああいったかたちで、特殊機能を備えた物が他にも作れないのかっていうことだ。
前世でいうと、日本の電化製品を外国に持っていってもそのままでは使えない、みたいなかんじなんだと思っている。
電圧の変換器みたいなものが必要なんだろうけど、俺も父さんもラザフォード侯爵も、あいにくとそっちの知識は皆無だった。面目ない。
この魔力互換問題が解決しないかぎり、ラルフは国内の高位貴族令嬢と結婚するぐらいしか道はなく。さりとて、彼女への未練も断ち切れない。
文通はしているし、お互いの国以外の場所、魔法にかかわらない場所では普通に過ごせるので、外交で他国に赴いたときに直接交流もしている。
相手から嫌われているわけではないが、先行きが見えない状態では身勝手に約束を取り付けるわけにもいかない。
俺とくー子の、他の異性に一切の興味がない『仲良しこよし』状態をずっと傍で見てきたラルフは、王太子という立場にありながら、恋愛に関しては一途でロマンチストなのだった。
「むずかしいよねえ……」
「あちらの王女殿下は、なにか言っているのか?」
「――彼女は、その、魔法を使わなくても人力でどうにかすれば、暮らしなんてどうとでもなる、物理最強、と」
意外とパワフルな王女だな。
妖精の血を引いているというから、もっと儚げな美少女を勝手にイメージしていたが違うらしい。思考が脳筋のそれである。
「じゃあ、べつにいいのでは?」
「そうだよねえ。王女殿下がそういう心づもりなら、あとはラルフくんが腹をくくるだけじゃないのかな」
「私も彼女も十八だし、本当に婚姻を結ぶのであれば、一度ローズメアへ来訪したいとも言っていて」
「向こうがその気なら、ますますいいじゃないか。なにが問題なんだ」
「だが魔法が使えぬとなれば、辛かろう」
俺とくー子は顔を見合わせる。
魔法なんてフィクションの中にしか存在しなかった世界で生きてきた身としては、「べつによくね?」という気持ちしかない。
魔力量の少ない層にも対応できるように、最近の魔道具は『いかに少ない魔力で稼働できるか』に舵を切っている。高濃度魔石をセットしておけば、それこそ魔力なんていらないぐらいの道具も出てきているのだから。
「あのねー、ラルフくん。侯爵家の使用人にも平民はいて、魔力量がとっても少ないひともいるよ。貴族の邸は魔力を使う道具も多いから、勤め先に困っていたの。でもゆーちゃんのお父さまが改良した魔道具は、小指程度の魔力量で稼働できるから、その方もきちんとお仕事ができるようになったわよ」
「そうだぞラルフ。むしろ魔力量に左右されず、誰もが普通に暮らせる社会をつくるために、王室が旗頭になる機会じゃないのか?」
「彼女を利用するというのか」
「ご本人に訊いてみればいいのよう。お会いしたことはないけれど、ラルフくんからいま教わったお人柄だけでも、意外と乗り気でやってくださりそうだけど?」
それでも悩んでいるらしいラルフに、くー子はツンと澄まして言った。
「いいこと? 女の子だって好きなひとのためにがんばりたいものなの。大事なひとのためには強くなれるんだから、見くびらないでよね」
紅一点の主張に、俺たちはただ首を垂れるしかなかった。いざってとき、たぶん女のほうが精神的に強い。




