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「お兄さまはヤンデレ化する攻略対象なのです!」と告げてきた妹が、前世の妹だった俺が求めるハッピーエンド  作者: 彩瀬あいり


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9 ヒロインの謎行動①


 最近の悩みどころといえば、妹曰くの『ヒロイン』であるところのリリカ・マスデック嬢だろうか。

 乙女ゲームがどうこうというのはともかくとして、彼女がどうやらラルフレイルにご執心らしいのだ。


 俺が考案した道具によって闇属性を抑制しているとはいえ、光魔法が闇を緩和することは事実。

 ラルフレイルがいずれ国を背負う立場にあるとすれば、妃になる女性に光属性を求めるのはなんらおかしなことではないし、なんなら推奨されている。


 けれどべつに必須というわけではなかった。

 あったらいいかな、ぐらいの要素。大事なのは人柄だ。


 なにしろ未来の王妃である。

 たとえ光魔法の保持者であっても、とんでもなく高慢だったり自分本位だったりするのは困るわけで。

 国民のことをきちんと思いやってくれるほうが、ずっと大事だった。


 これは国王陛下が常々おっしゃっていることだし、その教えを聞かされて育ったラルフは、見た目や身分、魔法属性で女性を判断するような男ではない。

 リリカ嬢のことも、特別に肩入れはせず、公正に見ていると俺は思う。


 否、思っていたのだ。




「どうすればいいと思う?」

「……と、言われてもなあ」


 生徒会室に呼び出された俺は、ラルフと向かい合って応接ソファーに座っている。椅子のあいだにあるローテーブルのうえに鎮座しているのはお弁当箱だ。


 繰り返そう。お弁当箱だ。


 この国が非常に日本的な要素に満ちているとはいえ、風土に関しては西洋の雰囲気が強い。

 暮らしている人間の容貌、生活に根付いた造形物。

 くー子やラザフォード侯爵のおかげで箸を使う機会も増えたが、基本的にはフォークとナイフを使う食事だし、食卓に並ぶのは米飯ではなくパンである。


 にもかかわらず、ラルフレイルに差し入れされたのは、大きめのハンカチに包まれた、蓋つきの四角い容器だった。


 中には俵型のおにぎりが容器半分に詰め込まれ、もう半分には数種類のおかず。

 タコさんウインナーっぽいもの、巻くのに失敗したと思われる玉子焼き、ホウレン草とプチトマト、茶色っぽいタレらしきものがかかった丸型の塊は肉団子だろうか。

 仕切りがないため、別のおかずに液体が浸食しているので、おそらく味が混ざってしまっているだろう。ああいったものは、片栗粉でとろみをつけないと、ひたすら液垂れするだけだ。前世で弁当を自作していた俺のほうが、もうちょっとマシなものを作っていたぞ。


 まあ、そんな自負はさておいて。

 問題なのは、この『お弁当』をラルフに手渡したのが、リリカ嬢であるということだった。


 最初はただの手土産だと思って受け取ったらしい。

 以前にも焼き菓子の詰め合わせを渡されたことがあったので、それだろうと判断した。

 生徒会役員の打ち合わせがあったので、お茶請けにでも使おうと、昼休憩前に設定していた定例面会時に渡されたときのまま、机に置いていた。


 放課後、包みを解いてみたところ、なんと中身がライスと副食の詰め合わせだったものだから仰天。居合わせたくー子が目を見張ったのは言うまでもないことだろう。

 水属性持ちの宰相子息ルスターが成分検査を実施したところ、毒物の混入はなかったし、薬物も検知されなかった。


 これはおそらく間違えたのだろう。

 これはリリカ嬢の昼食で、手土産と取り違えてしまったに違いない。彼女は食事できたのだろうか。


 そんな話に落ち着いた数日後、生徒会室にまたも同じデザインのハンカチで包まれた容器が置かれていた。中身は似たようなもので、リリカ嬢が書いた手紙が添えられていた。


 ラルフレイル宛の封書を他人が読むわけにもいかず、内容を知っているのは当人のみ。

 だが、それから数日おきに同じ形状のものが届くようになってしまったのだ。


 金銭の心づけなら頑として断ることもできるが、差し入れという形で届けられるものは扱いが難しかった。

 なぜならば、親交のある生徒から「先日はお世話になりました。我が地方の特産物です。皆さまでどうぞ」という体で届けられるものを、受け取ってきた実績があるからだ。


 特定の家、特定の人物。

 受け取る対象を選別してしまうと、問題が起こる。

 ラルフレイルは継承権を持つ王族で、学生であるがゆえに地固めもできていない。

 腹心の選定すら終わっていない状態で、付け込まれる隙を作ってはならないので、ひたすら公平に接する。


 なら、全部受け取り拒否すればいいのに。

 そう思わなくもないんだけど、過去の王族は在学中にさまざまなものを受け取って、それらが王室御用達となって発展して、国外へ輸出するまでに至ったこともあるとかで、なかなか「受け取れない」とは言いづらい空気があるらしい。



「だからって、弁当はないだろう。しかも勝手に置いていくとか」

「毎回手紙がついているから、誰からの差し入れかわかっているのが救いではあるがな」

「偽装しようと思えば、いくらだって偽装できるぞ、それ」

「筆跡を含めて鑑定はしている。書いたのは間違いなくリリカ・マスデック嬢だ」


 やることはちゃんとやっていたらしい。

 筆跡、紙面に残っている魔力の残滓(ざんし)

 彼女は光魔法という個性的な魔力持ちなので、残留魔力も特殊だろう。

 魔術師のなかでもエリート集団である宮廷魔術師たちが鑑定しているのであれば、弁当を持ってきているのはリリカ嬢で間違いないのだろう。

 しかし、弁当とは……。



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