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  妹が言うには俺は攻略対象らしい②


「はー。まさか魔術師のユージーンさまがお兄ちゃんとは思わなかったー。でもそれなら話が早いわ。お兄ちゃん、自重してね」

「自重しろもなにも、俺は本当にそのトンチキな野郎なのか? つーか、ゲームっておまえ。中二病はそろそろ卒業しろよ」

「だって本当なんだもん。ここは絶対『あなは』の世界なの!」

「あなは?」

「貴女の胸に一輪の花を。略して『あなはな』だったんだけど、発音しにくいから『あなは』になった」

「それってあれか? 高校の入学祝いに俺が買ってやったやつ」

「そう」


 さっきチラッと言ったけど、うちは母子家庭だった。

 DV野郎から逃げた母が女手ひとつで俺たち兄妹を育てていて、だからまあ、あんまり裕福とはいえないかんじで。ゲームとかもあれこれ買うこともできず、だから美由は、俺が買ってやったそれを唯一として、大事に大事に、やりこみプレイしていたようだった。ゆえに思い入れが深いのだろう。

 それはまあわかるんだけど、なあ。


 信じがたいといった気持ちは顔にも出ているらしく、美由は懸命に主張しはじめる。


 主だった貴族が通う王立学院に入学すべく、ミレイユは王都へやってきた。

 祖父母が住んでいる地方の邸で暮らしていて、デビューもしていない少女が王都へ来る機会はほぼない状態。タウンハウスへ来る前におのぼりさんよろしく馬車を走らせて、気を利かせた御者が学院の前も通ってやったらしい。


 そしてミレイユは気づいたのだという。


 正門、そこから見える校舎と風景。

 ゲームのオープニングに出てくるそれを見て覚醒。

 ああ、これはあのゲームの世界に違いない、と。


 たしかに王都へ着いた日、体調悪そうにしてたなあ。

 馬車酔いでもしたんだろうと思ってたけど、過去の記憶がよみがえって混乱していたらしい。なるほどな。


 この時点ではミレイユも半信半疑。確信がなかった。

 そのためしばらく通学し、学内の様子や状況、見知った名の人物がいないかをひそかにさぐる。そして二か月ほど経過した今、どうやら間違いないと判断するに至ったのだと言葉を締めた。


「なので、お兄ちゃん。ヒロインには近づかないでください」

「そもそも、そのヒロインとやらが誰なのか知らないんだが」

「ほらー、平民なのに、光魔法を操ることで入学した、特待生の女の子がいるでしょー」

「ああ、リリカ・マスデック嬢か。デヴィントン侯爵が後見についてる子だよな。殿下と話をしているの見たことあるよ」


 そう言うと、ミレイユは驚きの声をあげる。


「えええ、もうすでに王子ルートに向けて動いてるのー!?」

「べつにそういうんじゃないだろう。光魔法の保持者は国が管理してるから、一定のスパンで面会が必要なんだと。たぶん、その説明と打ち合わせじゃないか?」

「そうだ、そういう設定だ。王子の場合は、そこで会話イベント発生するから好感度上げやすいんだよねー。あ、でもそうなるとお兄ちゃんも結構な確率で遭遇するんじゃっ」

「俺はその場に同席しないよ。だいたい、あちらはうちとは派閥が違うから、おまえに言われなくても近づかないよ」


 学院の中では爵位を考慮しない。ようするに平等で無礼講ってお題目はあるけど、なかなか難しいところだろう。

 魔道具で名を馳せた我がオルファン家の背後にいるのはラザフォード侯爵。

 この国に侯爵は十家あるんだが、それぞれ任されている分野が微妙に違う。文系理系に分かれて、そこからさらに専門が違う、みたいに細分化されている。


 こまかいことは置いておくとして、特待生を後見しているデヴィントンと、うちのバックにいるラザフォードは昔から仲がよくないらしく、「あそこの家には関わるな」と小さいころから言われているのだ。

 我が家は100%子会社みたいな立場なので、親会社の意向には逆らえない。成り上がり子爵家が社交界で生きていられるのは、侯爵家の威光があるからだろうしな。


「でも、これからそうなるかもしれないじゃん。こういうのはね、ゲームの強制力っていって、ストーリーのとおりになっていっちゃうもんなの!」

「プログラムされた内容に現実が沿っていく? 未来はもう決まっていて変えられないっていうのか? でも、それを覆すのもまた物語の王道展開ってやつじゃないか?」


 俺とてライトノベルは読んでいた。転生やループ物語におけるお決まりのお約束ってやつは承知しているが、だからこそ、そこを打破するほうが燃えるだろう。


「それはー、そうなんだけどー」

「とりあえずあれだ。物語の筋を教えてくれ。恋愛シミュレーションってことは、最終的には特定キャラのルートに進むわけで、俺が本当に攻略対象なのかはともかくとして、俺のルートがやばい結末だから、そうはなるなって忠告なんだよな。でもさ。普通、恋愛成就して終わりだろ。女子向きだし、ハッピーエンドじゃないのか?」

「エンディングは数種類あるんだよ。ハッピーエンドとはべつにトゥルーエンドもあるけど、バッドエンドがやばめなの」

「バッドエンドだと俺が国を崩壊させるのか」


 お目当てのキャラに告白されるか否か。

 恋愛シミュレーションゲームにおけるエンディングって、その違いだけじゃないのかよ。


「あのね。ユージーンさまはマッドサイエンティストになるの。最初はね、ヒロインの光魔法を研究するために仲良くなるんだけど、最終的には実験動物にして、引きこもってやばめな実験しまくってね。当然、まわりのひとは止めるじゃん? でもユージーンさまは聞く耳持たないかんじでますますのめり込んでいって、邪魔するやつはみんな敵だーみたいになって暴走してね。最後は広範囲がピカって光って、場面が暗転して、戻ったときには焦土と化してて、『これでふたりきりですね』って呟いて終わるの。こわくない?」


「こわいどころじゃねーだろ、なんだその展開。それほんとに乙女ゲームなのか? 少女がやっていいゲームなのか?」

「ちなみに他のキャラルートでもバッドエンドは全部やばめでね、監禁したり、ドSになったりドMになったり、ストーカーになったり、パワハラしたりするの」

「最近のゲーム、こわい」


 そしてそれを嬉々としてやっていた妹もこわい。



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