第93話 銀行強盗も銀行員も客もなんかのほほんとしてて事件現場感ゼロすぎて眠くなった
銀行強盗する人ってなんで日中にやるんですかね? できれば夜中の誰もいない時にやってほしいもんです。
特に急にATM行かないといけなくなった時とかに強盗に来られると、ただでさえATMってすぐ混むのに全然用事済ませられないからマジでイラつくんですよ……。
〜 〜 〜
土日に親友と旅行いくんですけど、念のために現金下ろしとこうと思って会社の昼休みに銀行のATMに行ったんです。人が並んでてげんなりしましたけど、さっさと順番来てくれてとか思いながら待ってたら、銀行の入り口に目出し帽被った男たちが何人か現れました。
明らかに強盗でした。あーあ、昼休み潰れたわとか思って舌打ちしてたら、強盗たちが窓口に向かって行きました。
「亮平くん、客黙らせといて!」
「翔介、手際よくやれよ!」
顔隠してるくせに名前呼び合ってるんです。初心者かななんて思ってたら、翔介の方が窓口の行員にショットガンみたいなのを突きつけました。あれ絶対おもちゃだと思いますよ。翔介が言います。
「あの、すいません! 警備員は呼ばないでもらえますか!」
窓口のお姉さんがダルそうにため息ついてうなずきます。
「ホントに呼ばないでくださいよ! 絶対ですからね! 絶対に警備員呼ばないでくださいね!」
念を押しすぎてホントは警備員呼んでほしい人みたいになってます、翔介。っていうか、強盗なら強盗らしく命令すればいいのになんで敬語使ってんだよ?
「おい、そこのお姉さん!」
亮平が銃を突きつけて私に話しかけてました。
「なんですか」
「床に両手をついてもらえるとありがたいんですけど」
「お金下ろして早く会社に戻りたいんだけど」
「いや、あの、ボクたち強盗なんで、OKとはなかなか言えなくてですね……」
「お昼ご飯もまだ食べてないのよ」
「我慢してもらえるとありがたいんですけど……」
言い合ってたらそばの老婦人が、
「お姉さん、とりあえずやりたいようにやらせてあげましょう」
って大人の余裕を見せできたんで、私も床に座りました。私も大人なんでね。とか思ってたら、窓口の方で翔介がなんか言ってます。
「おい、田辺、バッグは?」
ちょっと小太りの田辺がなんか挙動不審なんです。っていうか、田辺も下の名前で呼んであげろよ。絶対このグループの中の序列低いでしょ、田辺。
「ごめん、忘れてきちゃった……」
「何してんだよ! どうすんだよ!」
「ええと、とりあえず、誰かから借りるよ……」
なんで強盗が客からバッグ借りてんだよとか思ってたら、女性客ばかりだったせいか集まったのがミニバッグしかなくて強盗グループがめちゃくちゃ落ち込んでました。ミニバッグ流行ってるからね。いまどきでかいバッグ持ってる人なんてあんまいないですよね。
「どうすんだよ、田辺。これじゃお金めちゃくちゃ小分けしないとダメだろ。おやつカルパスとか干し貝柱じゃないんだからさ、お前」
翔介が絶妙なたとえツッコミを入れてました。でも仕方なさそうにミニバッグをカウンターに並べて、翔介が言うんです。
「お金を出してください」
キャッシュカード出してんです、翔介。窓口のお姉さんもなんか律儀にカード受け取って、
「この残高ですと7万4672円までしかお出しできませんが」
とか返してるんです。そしたら、近くのおじさんが心配そうに口挟みます。
「いやいや、あんたらお金下ろしに来たんじゃなくて強盗に来たんだからさ、遠慮なく取っちゃいなよ」
なんつーアドバイスしてんのよって思ってたら、翔介が目出し帽取っちゃいました。めちゃくちゃ暑そうで汗だくなんです。
「じゃあ、お姉さん、この銀行にあるだけのお金、もらえますか?」
って翔介が言うんですけど、さっきのおじさんがまた口挟んでました。
「ダメダメ! ちゃんと覆面かぶんなきゃ!」
とか言って勝手に立ち上がって目出し帽を翔介にかぶらせました。翔介も翔介で「ありがとうございます」とかお礼言ってんです。なんなの、こいつら? 強盗だったらもうちょっと緊張感出してほしいもんですよ。
※ ※ ※
「7番でお待ちの吉岡翔介さん」
なんで強盗が整理券取って律儀に待ってたんだよ。しかも名前丸出しになってんじゃん、翔介。そして窓口のお姉さんもなに真面目にいっぱいのミニバッグにお金パンパンに詰めてカウンターに並べてんのよ。っていうか、今までの待ち時間めちゃくちゃゆったりとした時間流れてたのはなんなの? 誰か警察呼べよ。私もなんか床が冷たくて気持ちよくて寝そうになってたよ。
「あ、ありがとうございます」
何個ものミニバックを肩にかけてアパレル店員みたいになった翔介たちに窓口のお姉さんが声をかけます。
「こちら、お取引の方にお渡ししております、当行のマスコットキャラクターのアルファくんのキーホルダーです」
キーホルダーもらって強盗グループがなんかキャイキャイしてます。強盗しに来たんじゃないのかよ? 窓口のお姉さんもなんでこいつらを取引相手だと思ってんのよ。
行員たちが「忘れ物ないですかー?」とか強盗グループに声かけてんです。あんたらが忘れていってほしいもん肩からぶら下げてるよ、翔介が。行員とか居合わせた客たちが手を振って強盗グループを見送って、白昼堂々の強盗は終わりました。
なんかその後、普通にお金下ろして銀行出てきちゃったんですけど、私、夢でも見てた? とか思ってたら、会社に戻る途中で警官に首根っこ掴まれてる強盗グループとすれ違いました。翔介がこっち見て笑うんです。
「捕まっちゃいました、てへへ」
知り合いだと思われたくなくてシカトしてさっさと会社に帰りました。




