第86話 山奥の村の人たちがどんな事件も伝説の化け物のせいにして全部片づけてた
よく分からない伝説の生き物って、都合よく不可能殺人が起こる場所にいますよね。たいていはその生き物に罪なすりつけられてますけど、本人からしたらめちゃくちゃ迷惑でしょうね……。
〜 〜 〜
皆さんは不死身の探偵のこと覚えてますかね? 粉々にされても元通りになるやばい奴なんですけど、なんかその人から電話が来たんですよ。
『鈴木さん、山奥の村にヤマガミっていう伝説の生き物がいるらしいんで、一緒に探しに行きません?』
「ツチノコみたいなやつですか? 行きたくないです」
『じゃあ、村の最寄駅で待ち合わせましょう!』
「話聞けよ」
断る気満々だったんですけど、ハチ公みたいに勝手に駅前で待ち続けられても困るんで、仕方なく行くことにしました。
※ ※ ※
村の最寄駅といっても、そこからバスに乗って、村の近くで降りて、それでも30分くらい歩かないといけないんですよ。
「いやぁー、いいウォーキング日和ですねえ」
「めちゃくちゃ雨降ってんでしょ。靴の中びしょびしょで最悪だわ。マジで来なければよかった……」
雨が降りしきる山道を歩きながら不死身探偵が言うんです。
「今まで気にしてなかったんですけど、なんで僕はバラバラになっても元通りになるのかなって思って、全国の伝説の生き物を調べてるんですよ」
「なんで今まで気にしたことなかったんだよ。気にしろよ」
「生き返ってるのか、死んでないのか、色々疑問がありますよね。なんか僕だけクーポンいっぱいもらってるみたいで申し訳ないですよね」
「生きることをクーポンにたとえないでほしいんですけど」
そういえば、以前知り合った悪魔が言ってたんですけど、生き返らせるのは別に難しくないけど、色々な制限とか面倒なことがあるからやらないらしいです。
「なんか、僕って遺伝子操作されて生まれたらしいんですよ。僕を守ってくれた元FBIの人が言ってました。その人によれば、超能力者とか巨人とかも変な研究所で造られたらしくて、今度そういう人たち集めて遺伝子操作同窓会でも開きたいなと思いまして」
チーム作って地球の平和守るとかじゃないんかいとか思ってたら、いきなり山道を走ってきた軽トラに不死身探偵が思いっきり轢かれました。めちゃくちゃ吹っ飛んで転がってます。
「あちゃ〜……!」
運転手のおじさんが降りてきて頭を抱えてます。ものすごいスピードで走ってましたからね、このおじさん。青ざめて言うんですよ。
「こ、こりゃあ、ヤマガミ様の仕業だ〜!」
「いや、明らかにあんたが轢いたでしょ。めちゃくちゃ見てたからね、私」
そしたら、おじさんが深刻そうな顔するんです。
「お嬢さん、この先の村にはヤマガミと呼ばれる伝説の生き物がおるんじゃ……。凄まじい怪力に神通力を持ち合わせてる……。あんたも気をつけなさい」
「そっちこそ前方に気をつけてください」
とか言い合ってたら、不死身探偵が起き上がるんです。
「いやー、今めちゃくちゃ吹っ飛んでましたよね、僕?」
雨に打たれてびしょびしょの不死身探偵がこっち来るのをおじさんがびっくりした顔で見てます。
「ヤマガミ様にやられてなんともないとは……」
なんで前方不注意をヤマガミのせいにしてんの、このジジイは? なんて思ったんですけど、不死身探偵がおじさんに頼んでんです。
「村まで乗せていってもらえません?」
轢かれたことなんとも思ってないのかよ? 本人がいいなら別にいいかと思って、そのままおじさんの軽トラに乗せてもらいました。おじさんとしてもやましいから断れなかったんでしょうね。もう歩きたくなかったから、不死身探偵が轢かれてラッキーでした。
※ ※ ※
村に入って危険運転おじさんと別れて、村の人に話を聞きに行きました。小さな商店をやってるおばあさんが優しそうに迎え入れてくれます。
「おやおや、こんな辺鄙なところに何の用だい?」
不死身探偵がにこやかに答えます。
「ヤマガミのことを調べにきたんです!」
そしたら、おばあさんが鬼の形相になりました。
「余計なことするんじゃないよ! ヤマガミ様に目をつけられたらどうすんだい!」
とか言って、近くに置いてあった鉄パイプで不死身探偵をボコボコにしちゃいました。気の済むまでぶん殴ったおばあさんは、ハッとして血だらけの不死身探偵を見下ろします。
「や、ヤマガミ様の仕業じゃ……!!」
「めちゃくちゃ自分でぶん殴ってたでしょ、おばあちゃん。っていうか、なんで鉄パイプ常備してんの?」
そしたら、おばあさんがこっち見るんです。
「ヤマガミ様は恐ろしい……。あんたも気をつけなさい」
「なんでもヤマガミ様のせいにするのよくないところですよ、この村の」
血だらけの不死身探偵が笑いながら立ち上がって言います。
「いやー、ヤマガミって怖いですねえー!」
なんでこいつもヤマガミの仕業だと思えるんだよ? 目の前のババアにボコられてたでしょうが。しかも、おばあさんにヤマガミから身を守るお守り買わされてんです、不死身探偵。ババアのマッチポンプじゃん。めちゃくちゃカモにされてんじゃん。
※ ※ ※
「この村やばいですからさっさと帰りましょうよ。なんかガンニバル観てる気分になってきましたよ」
雨も止みそうにないし、ろくな村人もいないんです。でも、不死身探偵が言うんですよ。
「確かに、ヤマガミの恐ろしさがこの村を覆い尽くしてますねー」
「ヤマガミ関係ないんだよ。村人がやばいんだよ。いい加減気づけよ」
「大丈夫ですよ! 不死身なんで、僕」
「私は違うんだよ。私の気持ち考えろバカ」
とか言ってたら、村の広場の方でなんかギャーって悲鳴が上がったんです。急いで駆けつけたら、男の人が横たわってる人に馬乗りになってでかい石でガンガン殴ってんです。もう相手はピクリとも動いてませんでした。白昼堂々こんなら開けた場所で殺人かーなんて思ってたら、その男の人が立ち上がって満足そうな顔してんです。
「けっ、おめえのことは昔から気に食わなかったんだ!」
男の人がこっちを見ます。で、叫ぶんですよ。
「見てくれ! ヤマガミ様がこいつを……!」
さすがにずっこけそうになりました。
「いや、お前が殺したんでしょーが! めちゃくちゃスッキリした顔してたでしょ!」
でも認めないんですよ、この男。
「ヤマガミ様だよ、これは! ヤマガミ様の仕業なんだ!」
「さすがにそんな言い訳通じないよ……」
とか言ってたら、不死身探偵が考え込んでんです。その間に、村人たちが騒ぎを聞きつけて集まってきました。みんな「ヤマガミだ……」とか呟いてんです。どんだけヤマガミ頼りなんだよ、こいつら。
「僕たちの目には、この男の人しか見えなかった……。ヤマガミは一体どうやって殺したんだ……?」
なんか不死身探偵が真剣な顔してんです。バカなの、こいつ?
「ヤマガミのこと忘れろ! この事件に裏なんかないから! ヤマガミもいい迷惑だよ!」
とか言ってたら、山の方からなんかが飛んできて、近くの建物の屋根の上に降り立ちました。天狗です。村人たちがどよめいてます。天狗が叫びます。なんか未成年の主張みたいなシチュエーションですね。
「マジで俺様のせいにすんのやめてくれる?!」
天狗がクレーム入れにきたみたいです。
「あのさぁ、いつも山の上から見てるけどさぁ、お前らなんかあったらすぐ俺様のせいにしてんじゃん! マジでいつもイラついてたからね?」
天狗がめちゃくちゃ怒って顔真っ赤になってます。いや、それは初めからか。さすがに伝説の生き物本人からの苦情とあっては村人たちも居心地悪いだろうなと思ったら、村人が言うんです。
「おい、おめー、かっちゃんとこの息子だろ! いつもイタズラしやがって! そこから降りろ、あぶねーからよ!」
「なんで俺様のことはヤマガミだと思わねーんだよ!!」
天狗が自分の姿を人間の仕業だと思われてブチ切れてます。村人たちが口々に言います。
「かっちゃんとこの息子ならやりそうだな」
「≪こすぷれ≫ってやつだろ」
「よくできてんなぁー、あの鼻」
責任丸投げしてたヤマガミが出てきてんのに、そこは人の仕業にするんかい。そしたら、不死身探偵も難しい顔してんですよ。
「ヤマガミと人間はお互いに罪をなすりつけていたってことか……?」
「そんな複雑じゃないんだよ。全部人間の仕業でヤマガミはなんもしてないだけだから」
ってツッコミ入れてたら、ヤマガミが私を指さします。
「そう! そうなんだよ、姉ちゃん! こいつら、頭おかしいんだよ! ボサッとしてないでお前からもなんか言ってやってくれよ!」
って上から目線で言ってきてイラついたんで、村人のみんなに言ってやりました。
「あいつ、かっちゃんの息子ですよ」




