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第83話 犯罪王を名乗る人が家に来てなんかされるのかと思ってたら自慢話聞かされただけだった

 たくさんの犯罪に絡んでるんだぞって偉そうにしてる世の黒幕の皆さんに言いたいんですけど、それ全然カッコよくないですよ。昔やんちゃしてたんだよとか飲み会の席で上司が胸張って言ってんのと変わんないですからね。そういう話、まわりのみんなは100聞き流してますんでね。


 まあ、飲み会ならまだマシじゃないですか、1対多数ですし。この前、私はこれを1対1でやられたんですよ……。



〜 〜 〜



 会社から帰ってきてパンプスと靴下脱ぐ瞬間好きなんですよ。解放されたって感じがするんで。で、靴下脱いでリビングのソファにぶん投げようとしたら暗い部屋の中でそのソファに座ってる奴がいるって気づいたんです。


「やあ、就労ご苦労」


 とか言ってなんか神経質そうな痩せたおじさんがこっち見てんです。


「私を労うならさっさと消えてほしいんですけど」


 おじさんは笑います。言葉通じてんのかよ?


「聞きしに勝る豪胆な女性のようだね、鈴木さん」


「私そんな武将みたいな人間じゃないんですけど。っていうか、なにくつろいでんですか人の家で」


「お茶とお菓子はあるかね? 少し話をしようじゃないか」


「なにちゃっかり優雅なひととき過ごそうとしてんですか、人の家で」


 なんかこのおじさんめちゃくちゃゆったりとしてでんと座ってんです。こいつ人の言うこと聞かない奴だと思って、死ぬほどため息出ました。


「お茶じゃなくてスーパーに安売りされてたよく分かんないメーカーのコーヒーしかないですけど文句言わないでくださいね」


「コーヒーの香りがあれば会話も弾むだろう」


「黙れ」



※ ※ ※



「さて、私は周囲から≪教授≫と呼ばれている」


「ああ、そうですか」


 コーヒーとこの前職場の人にもらった出張のお土産のバウムクーヘンを出したんですけと、私これ食べるの楽しみにしてたんですよ。なんでよく知りもしないおっさんに出さなきゃいけないの。


「イメージしやすいように言うと、モリアーティ教授のようなものだ」


「いや知らないですけど」


「ふふふ、私はあの千年原(せんねんはら)研究所の創設者の孫なのだよ」


「すごいと思って言ってんのか分かんないけど、知らないんだよそんなの」


「ふふふ、あの悪魔の研究所について知らないとは、それはそれで幸福なのかもしれんな」


 いるんですよね、こういう自分が知ってる世界が全てみたいな奴。めちゃくちゃダサいからやめろって言っても聞かなそうだから黙っときました。心広いところ見せてやらないとね。


「私のことは、犯罪王とでも呼んでくれたまえ」


「教授なのか犯罪王なのかどっちかにしてもらえます?」


「というのも、私はこれまで都内の連続殺人や花で装飾された殺人事件など、数多くの犯罪に関わってきたからだ」


 そういえば今日は毎週楽しみにしてたドラマの日なんでした。時計見たらもう始まってる時間で、テレビつけながら話聞いてやろうかと思いましたけど、諦めて後でTVerで観るしかないですね。とか思ってたら、おっさんがまだ自慢話してました。


「──他にも、各地でインパクトを残せる被害者になるためのセミナーをプロデュースし、人々の被害者願望を開花させてきたのだ。これぞまさに自ら手を下さずして被害をまるでウィルスのように拡散する画期的手法……」


 帰りにドラッグストアで目薬買って来んの忘れたこと思い出しました。おっさんの話早く終われば店閉まる前に買いに行けるかもとか思って真剣に話聞くフリしました。


「へー、そりゃすごいですねー。さぞみんなにリスペクトされてんでしょうねー」


「ふふふ、分かるかね? 犯罪王の名は伊達ではなく、関わっていない犯罪の方が少ないのではないかともっぱらの噂だぞ」


 ミスりました。煽てると饒舌になるタイプでした。そんなに自慢話したいならキャバクラ行けばいいのに。キャバ嬢のトークスキルすごいから私よりいいリアクションできるよ。


「おっと、私が犯罪王だからといって警察に連絡しても無意味だぞ。私が犯罪に関わる証拠は全て消去済みなのだからな」


「あー、別に警察に通報する発想なかったんで気にしなくていいですよ。っていうか、さっさと要件に入ってもらえると助かるんですけど。目薬買いに行きたいんで」


「ふふふ、さすがは≪死神の王≫と呼ばれる鈴木さんだ」


「その二つ名いかつすぎるからやめて」


 あとわざわざコーヒー出したのに全然飲まないのイラつくんですけど。



※ ※ ※



「君に出されていた暗殺命令は私が破棄させておいた」


「いつ暗殺命令出されてたんですか、私」


「最近、殺し屋に狙われなくなったと思わないかね?」


 確かに、ちょっと前まで殺し屋に追いかけられたりしてたんですけど、最近見なくなりました。


「あー、じゃあ、それって≪万歳王≫のおかげなんですか?」


「≪万歳王≫ではない。≪犯罪王≫だ。私に感謝するがいい」


「感謝押しつけられるの嫌いなんですけど」


「ふふふ、私はとある組織に属している」


 なんか急に語り始めたんですけど。たぶん小1時間コースだよこれ。あと30分くらいで店閉まっちゃうんだよな……。とか思ってたら、聞いてもいないのになんか説明始めるんです、このおっさん。っていうか、ずっとロートーンで話してくんだけど、それがカッコいいと思ってんですかね?


「そこには組織を分割管理する四天王と呼ばれる4人のリーダーがおり、それぞれ策士、暴君、戦士、そして教授と呼ばれている」


「策士と教授ってなんとなくキャラ被りしてそうだからもうちょっとかけ離れた名前にした方がいいと思いますけどね」


「ある時、策士がとある孤島の館で殺害された。それがきっかけとなり、組織内のバランスは崩れ、今や分裂状態だ」


「ひとりいなくなったくらいでそうなるって、その組織、雑魚すぎません?」


「ふふふ、とぼけなくてもいい。それが君の仕業なのは分かっているさ。策士が赴いた孤島に君がいたことは調査済みだ」


「えーと、マジで心当たりないんで、勘違いだと思います」


「ふふふ、そういうことにしておこう」


「いやなんかそんなホントは私の仕業だけどみたいな含み要らないんですけど」


「しかし、策士は四天王の中でも最弱……取るに足らないことだ」


「うわ、そういうのリアルで言うのダサすぎなんでやめた方がいいですよ。しかも四天王って小学生じゃないんだから。っていうか、その人いなくなって組織分裂してんなら最弱ってわけでもないでしょ」


「だか、私は君に恨みがあるわけではない」


「だから殺してねーって言ってんでしょ」


「とにかく、君の≪死神の王≫の名は伊達ではない。我々は君から手を引くこととしたのだ」


「その二つ名やめてって言ってんでしょーが。女の子につける名前じゃないんだよ、どう考えても」


 なんか言うこと言ってスッキリしたのか帰り支度し始めんです、このおっさん。警察に通報したら慌てて帰んのかなって気になったんですけど、こんな小物捕まえても警察には何の得もないだろうから見送ってやりましたよ。


 何が一番腹立ったかって、バウムクーヘン持って帰りやがったことですよ。犯罪王のくせに。ただおっさんの自慢話聞かされてバウムクーヘン盗まれて、何の時間だったんだよ?


 ドラッグストアに目薬買って帰ってきたら、この前、目薬ストックしとこうと思って買っといたやつが出てきて、めちゃくちゃしんどかったです。あと、ドラマTVerで観ようと思ったら、今日は特番でやってなかったみたいです。頭に来たんで、Uberで油そば注文して貪り食ってやりました。

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逆に、TV見ながら話聞いたらどうなったのか……
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