第72話 動物と意思疎通できる探偵の能力はすごいのに動物の思ってることが役に立たなすぎた
皆さんのまわりにも動物と話せる人いると思うんですけど、ホントに動物と話せると楽しいのかっていうとちょっと疑問ありますよね。
だってこの前、動物と話せる探偵と出くわしたんですけど、マジで役に立たなかったですもん……。
〜 〜 〜
公園の広場に死体が転がってまして、警察が捜査してるんです。たまたま通りがかったんで見てたんですけど、なんか目撃者がいないとかで警察が困ってるんです。
そしたら、私の後ろから若い女の人がやってきたんですけど、なんか鳥とか野良犬とか野良猫とか、とにかくまわりにめちゃくちゃ動物引き連れてるんです。明らかに異質なんですよ。
「あの、刑事さん、私は動物たちと話すことができます。この公園にはたくさんの動物がいますから、話を聞いてみましょうか?」
いきなり頭おかしいこと言うなーなんて思ってたら、刑事が「お願いします」とか言ってんです。ちょっとは疑おうとか思わないんですかね?
動物探偵が肩に乗った鳥となんかゴニョゴニョやってます。刑事が身を乗り出して尋ねるんです。
「なんと言ってますか?」
「ご飯食べたいと言っています」
思わずずっこけて口挟んじゃいましたよ。
「動物の考えてることとかどうでもいいでしょ」
って言ったら、刑事がふむとかうなずいて、
「確かにあなたは動物と話ができるようですね」
とか納得してんです。なにを見てそう思ったんだよ? 動物探偵がまた鳥と会話して、真剣な顔をします。
「東の森にいるメスとエッチがしたいそうです」
「どうでもいいわ、そんなこと! 確かにそうなのかもしれないけど、本能に忠実すぎるでしょ、その鳥」
私のツッコミに動物探偵が真面目な顔で返してきます。
「それが彼らなのですよ。我々人類は嘘をついてばかりです」
「そんな薄っぺらい人間批判いらないんだよ。事件のこと聞けよ」
「…………事件のことは知らないそうです」
「じゃあ、その犬とかはどうなんですか?」
また犬とゴニョゴニョやって顔を上げた動物探偵が言います。
「ご飯食べたいと言っています」
「もうご飯のこと聞くなよ」
「いや、死体から血のにおいがしてお腹が空いたんだそうです」
「知らないんだよそんなこと。言ってることが犬すぎるでしょ」
犬だから犬すぎるのは当たり前なんですけど、いくらなんでも犬すぎて犬じゃないんじゃないかとか思ってたら、動物探偵が犬と会話して、大きくうなずきました。何か分かったのかもしれません。
「繁華街では中華料理店の残飯がおいしいんだそうです」
「耳寄りでもないんだよ、その情報」
とか言ってたら、犬が吠えるんです。刑事が眉間に皺を寄せます。この期に及んでまだ何か有益な情報が得られると思ってそうです、この刑事。
「い、今はなんと?」
「おしっこがしたいそうです」
思わず犬を引っ叩きそうになりました。でもなんとか踏ん張りましたよ、私。
「勝手にしてろって伝えてください」
ホントに動物探偵が伝えてます。皮肉が通じないみたいです。犬がどっかに走って行っちゃいました。野良猫に至っては寝たいからあったかいところ教えろとか言ってきて、マジで役に立ちません。こういうのって、動物が事件の重要なヒント教えてくれるもんなんじゃないの?
※ ※ ※
現場のすぐそばに池があるんですけど、動物探偵がそこで声かけてんです。鯉が顔出してきました。まあ、確かにホントに動物と話せるみたいではあります。
「ご飯食べたいと言っています」
「もうご飯のこと訳してくんなって! あんたの方でカットしろよ。言ってること全部知りたいわけじゃないんだよ、こっちは。っていうか、そもそも鯉なんて水の中にいるんだから何も見てないでしょ」
「あー、確かにそうですね」
この動物探偵、ちょっと天然入ってますよね。なんか刑事も別の仕事で忙しいらしくて、よく分かんないんですけど私が動物探偵の助手みたいになってんです。面倒な役押しつけられたんですかね、私?
そしたら、池の向こうからアヒルが水面をスーッとやってきたんです。動物探偵に何か言ってます。
「そのアヒル、なんか見たって?」
「アフラックって言ってます」
「保険のCMじゃねーか」
動物探偵が微笑んでます。
「アヒルなりのボケなんでしょうね」
「要らないんだよ、そんなアヒル界のユーモア」
アヒルがグワグワ言いながら池の向こうに行っちゃったんですけど、これは私にも分かりましたよ、めちゃくちゃバカにされてるって。
とかなんとかやってたら、遊歩道の方からおじさんがやって来ました。で、動物探偵に言うんです。
「あの、僕見たよ。昨日の晩にここで口論してたふたりのこと」
動物探偵と目が合います。彼女が言います。
「昨日の夜にここで口論してる人を見たって言ってます」
「いや、通訳しなくていいから」
そしたら、動物探偵がめちゃくちゃびっくりして言うんですよ。
「お姉さん、この動物の言葉が分かるんですか……!?」
「おじさんにぶん殴られろ、お前は!」
もう動物と話しすぎてワケ分かんなくなってんです、この動物探偵。結局、私がおじさんに話聞いて事件解決しました。
「いやー、ありがとうございます! 素晴らしい能力ですね!」
って刑事が動物探偵に言ってんですけど、100私の手柄だよね? 失礼なこと言ってた動物探偵にキレそうだったおじさんをなだめて情報聞き出した私のコミュニケーション能力の賜物だよね?