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第7話 パーティーの招待客の名前に明らかな規則性があって探偵のテンションが爆上がりしてるんだけど

 事件に居合わせた時、一緒に事件に巻き込まれた探偵がやけに嬉しそうにしてる姿を皆さんもよく見ると思うんです。人として最低だってのは全会一致を得られますよね。


 先日招待されたパーティーで、そんな最低な人間と出くわしました……。



〜 〜 〜



「あのぅ、鈴木さんですよね?」


 口髭を生やした紳士から会場で声をかけられたんです。ああ、ついに私もセレブからナンパされるようになったかって思ったんですけど、なんか様子がおかしいんです。


「事件に巻き込まれるとお聞きしましたぞ」


「ああ、はい。そうなんです。……え、私ってこの界隈で有名だったりします?」


「界隈というのが何を指しているのか見当もつかないが、あなたの噂は耳にしますよ。疫病神とか死神とか」


 全部悪口じゃねーか。私の知らないところで変な動画とか拡散してんじゃないだろうな?


 戦々恐々としていると、紳士が口髭を撫でながら、ふふ、と笑います。


「その噂はどうやらホンモノのようですね」


「ん? どういうことですか? 事件なんて起こってないですよね?」


 よく考えたら、初対面の人間によく死神とか言えたな、このおっさん。私こういうのわりと根に持つタイプなんですよ。


「このようなパーティーで殺人が起こるなんてのは、お約束ですからね」


「いや、ものすごい偏見だと思いますけど……」


「ああ、申し遅れました。わたくし、藤堂(とうどう)兵右衛門(ひょうえもん)という探偵でございます」


「あー、だから、パーティー会場を殺戮現場だと思ってるんですね」


 まあ、否定はできないところではありますよね。パーティーって殺人が起こるところなんでね。特に探偵なんかがパーティーに参加した日には、殺意が人を選んで事件起こしますからね。だから、事件を防ぐには探偵を皆殺しにするといいですよ。


 ところが、藤堂は人差し指を立てて舌を鳴らすんです。世の探偵はこういう所作をやれってどこかの機関から命令されてんですかね?


「わたくし、すでに事件を嗅ぎつけております」


「どういうことですか?」


 藤堂が人を呼ぶと、ドレスアップした3人がやってきます。


「こちら、左から、一ノ瀬さん、二宮さん、三井さんです。お分かりでしょう、彼らには共通点があるのです。そう、数字です」


「たまたまじゃないですかね……」


 なぜか苗字に数字が入ってる人探しに付き合わされることになりました。パーティー参加者にひとりひとり苗字を聞いていきます。藤堂には手分けして探しましょうって言われたんですけど、面倒だったんで私は誰にも声かけませんでした。



※ ※ ※



「ふぅむ……、揃ってきましたな……」


 それから、どういうわけか四条さん、五十嵐さん、六角さんとボロボロ出てきます。さすがにちょっと笑いました。今や8人組で会場を練り歩いてるんです。ピクミンかなって思いましたね。


「これは、人殺しのにおいがプンプンしますな」


 藤堂の目が爛々と輝いてるんです。これから殺されるかもしれない人たちを集めて笑ってんですから、こいつが一番やばいでしょ。他人と思われたかったので、別れる口実が欲しかったですね。


「すごいですね。藤堂さんの推理は当たってたってことで、おめでとうございます。じゃあ、私はこれで──」


 もうね、集められた1から6が私を恨めしそうに見つめてくるんですよ。お前行くんかい、みたいな。見捨てるんかい、みたいな。勝手に連帯感持たれてるわけです。連帯保証人にされてんです、いつの間にか。サインした覚えないのにね。


「これは、モーセの十戒ですな」


 藤堂が口髭を撫でながら言うんです。たぶんこの仕草、元ネタあるんでしょうね。探偵なんて腐るほどいるからキャラの食い合いなんで、どっかからパクってますよ。でも、そんなことおくびにも出さずに私は応対します。大人なんでね。


「モーセの十戒……。あの、海を割ったっていう……」


 私だってモーセの十戒くらい知ってんです。でもね、藤堂くらいの年代のおっさんにはある程度バカに思われた方が都合がいいですからね、そこそこの知識で留めとくもんです。そしたら、勝手に喋りますからね。


「いかにも。モーセは神から10の戒律を授けられたのです。それはすなわち──」


 10個の戒律を説明してくれたんですけど、そこは割愛で。長いからね。


「つまり、犯人はモーセの十戒になぞらえて彼らを殺す算段なのですよ」


「そうなんですか。皆さんが青ざめてますけど、そんなこと言って大丈夫ですか?」


「わたくしは名探偵・藤堂兵右衛門。狼藉は見逃さぬ」


 皆さんは決めゼリフがあるタイプの探偵には気をつけましょう。ろくなことにならないんでね。最悪、旅行先で犯人の都合かなんかで動機もなくサクッと殺されますよ。



※ ※ ※



 藤堂が気合を入れてパーティー会場から七瀬、八木、九重、十文字と、ついに散らばった10人全員を見つけ出しました。もう団体客です、私たち。集まったみんなもなぜか目の前の事実に拍手なんかしちゃってんです。この後、カラオケにでも繰り出せる一体感ですよ。


「これで犯人の狙いは完全に看破した。皆さんはわたくしのもとから離れないように」


 頼もしそうな言葉だったが、私は離れたかったんです。なんせパーティーの序盤で藤堂に話しかけられて、美味しそうな料理にありつけてないんです。お腹空いてめっちゃイライラしてました。


 トイレに行くふりして離脱しようかなって思ってると、向こうのテーブルの前で誰か倒れてんです。キャーとか悲鳴も上がってるんですよ。こっちの10人無傷だからね。そりゃ、ポカンともするでしょうよ。


「どういうことだ!? なぜこの中から選んで殺さない?!」


 まるで殺されてほしいみたいに藤堂が言い出すんです。向こうの方では「田嶋さん、大丈夫ですか!」とか声上がってんの。モーセとか関係ない。


「この犯人はセンスがない!」


 急に藤堂が不満をあらわにします。いや、早く事件解決しに行けよ、狼藉は見逃さないんだろって、集まった10人のうち3、4人は思ってたと思います。


「普通、ここまで名前が揃ってたら、行けるはずなんだがなぁ……」


 ジジイがまだモーセの十戒にこだわって頭抱えてます。ポーカーでもやってんのかってセリフですけど、この人ならカモにされるでしょうね。弱そうだもん。口髭も似合ってないしさ。剃ればいいのに。


 その後、警察が来て普通に犯人逮捕してました。そりゃ、現場にいたら捕まるよね。

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