第68話 殺し屋が訪問販売に来た
殺し屋の人って生計立てるの大変でしょうね。だから単価高いんでしょうけど、格安プランとか始めたら逆に有名になって儲かるかもしれませんよ。
でも殺し屋が営業とかかけてるとめちゃくちゃダサいんでマーケティングにお金かけた方がいいと思いますよ……。
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私、たまの休日の午後にお取り寄せグルメ食べるの好きなんですよ。別に豪華なものじゃなくてもいいんです。八天堂のくりーむパンってやつをお取り寄せしたんですけど、24時間かけて冷蔵庫で解凍するのがいいって書いてあったんで、前日から冷凍されてるのを冷蔵庫に移して万全の状態で待ってたんです。
もうそろそろ24時間だって時にインターホンが鳴りました。モニター見ると、スーツ着た知らない男の人が立ってんです。
『殺し屋ですー』
モニターの中でヘコヘコして言うから思わず、
「あ、ご苦労様ですー」
って返しちゃいましたよ。最近よく殺し屋に狙われるんで、その類かと思ってたんですけど、殺し屋が言うんです。
『お殺しになりたい方はいらっしゃいますか? わたくし、そのお殺しを代行させて頂くサービスを提供しておりましてー』
お殺すってなんだよって思ったんですけど、殺すに尊敬語なさそうだからそう言うしかないよなーなんて思ってたら、殺し屋が続けます。
『いかがですか? 今でしたら半額で殺させていただいてるんですけどー』
「いや、あの、安いからお願いしようかなって問題でもないんで、結構です」
『でも、ストレス社会というじゃないですかー。ぶっ殺したい人のひとりやふたり、いらっしゃるでしょー? ムカつく上司とか家族での骨肉の争いとかありますでしょー?』
「そこまで殺したい人が現れたら自分でやりたいんで、大丈夫です」
『でも初めてだと何かと分からないこと多いでしょうからねー。そういう時に殺し屋にご依頼いただけましたら最短30分でお伺いしますんでねー』
くりーむパンの食べ頃に設定したアラームが鳴ったんでさっさと切り上げたかったんですけど、殺し屋がずっと喋ってんですよ。
『お支払い方法も各種取り合わせてますからねー。PayPayとかAmazon Payでもお支払いできますよー』
「支払い便利だから殺してもらおうってならないから。あの、間に合ってますんで、要らないですから」
『月単位の契約もありますからねー。1ヶ月単位で殺し放題ですよー』
「いや、サブスクで殺してもらうほど殺したい相手いないのよ。もったいないから月末にまとめて殺してもらおうじゃないのよ」
『そうですかー……。アプリで今どこで殺してるかみたいなことも見られますよー。便利だってご好評いただいてるんですけどねー』
「別に知りたくないんだよ。何が好評なんだよ」
『あの、ポストにクーポン入れておいてもよろしいですかー?』
「割り引かれてもなびかないって言ってんでしょ! さっさと帰れ! くりーむパン食べ頃なんだよ、こっちは!」
『ちょっと待ってくださいよー! 分かりました! USJのチケットつけちゃうから!』
「人殺させといてUSJ楽しめるわけないだろ!」
『じゃあ、殺し屋体験コースで殺させてあげますから契約してください!』
「なら自分で普通に殺すわ! 要らない手間なんだよ!」
『あ、やっぱり殺したい人いるんじゃないですかー! っていうことで、ぜひ契約を! 今ならサービスで殺した相手の首を冷凍便でお送りできますよ!』
「戦国武将じゃあるまいし、要らねーっつってんでしょーが! 帰れ!」
色々言い合ってたらマンションの他の住人から通報されたんでしょうね、管理人さんが追い出してました。イライラしてたんですけど、なんとかくりーむパンのおかげで心が休まりました。ちなみに、殺し屋の訪問販売が寄りつかないように「殺し屋巡回中」ってプレート買って玄関に貼りつけときました。




