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第57話 クローズドサークルなのに探偵が密着取材されてる

 情熱大陸とかアナザースカイとかで密着される妄想って誰しもがやることだと思うんですけど、マジで密着されたら気が散って本来の力出なそうですよね。


 だからこの前の探偵もポンコツだったんでしょうか……。



〜 〜 〜



「早速1人目が殺されちゃいましたけど、今の気持ちはどうですか?」


 探偵の横にずっとついてるカメラ持ったディレクターが訊いてるんです。絶海の孤島に建つ館なんですけど、探偵が密着されてんです。


「そうですね……。ついに恐れてたことが起こったっていう感じですね」


「予想はしてたんですか?」


「招待状が来てたんでね、ある程度の想像はしてたんですけど……」


 ディレクターが死体のところに行ってカメラ回してんですけど、使えないでしょ。なんの番組か知らないけど。そしたら、事件関係者にも話聞き始めるんですよ。私のところにもやって来て、


「こういうところだとやっぱり殺人って起こりやすいんですか?」


 とか訊いてきました。顔晒されるの嫌なんですけどって言ったら「オンエアでは顔隠すんで」って返ってきたんですけど、どこでオンエアするんだよ?


「まあ、招待状も来てますし、こういう所に来る人もちょっと分かってて来てるみたいなところありますよ」


「え、そうなんですか? 殺人が起こるかもしれないのに?」


「誰か死んで驚いてる人とかいるじゃないですか。ああいうのとかってパフォーマンスだったりしますからね」


「こういうところにはよく来られるんですか?」


「まあ、そうですね。しょっちゅうって感じですね」


「……もしよろしかったら、いつか密着させてください」


「絶対に嫌です」



※ ※ ※



「これからどうするんですか?」


 ディレクターが訊くと、探偵が支度をしながら答えます。


「この館の裏側に山があって、そこにこの館の主が納められた霊廟があるんですけど、そこに行って調査しようかな、と」


「霊廟っすか……」


「謎解くために背景事情を知っておく必要があるんですよ」


 ってことで、みんなで裏山に行くことになったんですけど、ディレクターが息切らしながらずっと質問してるんですよ、探偵に。


「あの、探偵って、はぁはぁ……、なんか話聞いて矛盾を指摘して……っていうのを、はぁはぁ……、想像してました……」


「ははは、探偵は結構体力仕事みたいなもんですよ」


「キツいっすね……」


 ディレクターがめちゃくちゃ遅いんです。密着してるくせに私たちの足引っ張ってんの。普段運動しないからちょっと太ってんですよ。みんなでちょっと進んではディレクター待ちみたいな時間が結構ありました。


 山の上の霊廟に着いたんですけど、その隣に小屋があって、変なおじいさんが住んでたんです。無人島じゃなかったんですね、ここ。探偵が先陣切るんですけど、ディレクターに、


「ちょっとカメラ向けないでください。撮影してもいいか訊いてくるんで……」


 とか言ってるんです。いや、取材交渉してる場合じゃないでしょって思ったんですけど黙っときました。



※ ※ ※



「ワシはここの墓守だよ」


 なんか撮影できるみたいで墓守が話し始めるんです。怪しい墓守らしく撮影拒否しろよって思って見てたら、ディレクターに画角の指示とか出してんです。なに目立とうとしてんのよ?


「墓守ってことは、ずっとここに住んでるんですか?」


 探偵が訊くと墓守が大きくうなずきます。


「それがワシらの家の代々の役目だからね」


 探偵がディレクターに向けて説明するんです。


「ここの館の主が遺言を残してて、生前自分に仕えた人たちに色々な指示を出してたんですよ」


「え、でも、さっき殺された人って、ここの館の主と関係があるとか言ってませんでしたっけ?」


「おそらくは今回の事件の犯人もかつてここに仕えた人たちの家系かもしれないです」


 ひと通り撮影終えたら、墓守がディレクターに訊いてるんです。


「これ、なんチャンでやるの?」


「ああ、まだ放送予定は決まってないんですよ〜」


「リアタイしたいし録画しときたいから決まったら教えて」


 絶海の孤島で暮らす墓守らしくしてほしかったですね。リアタイとか言ってんじゃないよ、ネット民かよ。っていうかここテレビ観れたんかい。



※ ※ ※



「なんかやばくないですか……? もう4人も殺されてますよ……」


 ディレクターが詰め寄るんですけど、探偵がなんか不機嫌なんですよ。


「そんなこと知ってますよ」


 密着されすぎてウザそうなんです。そりゃ、毎回人死ぬたびに気持ち聞かれてたらイライラもするでしょうよ。そしたら、ディレクターも無神経なのかズカズカ問い詰めるんですよ。


「まだ犯人分かんないっすか?」


「そんなホイホイ分かってたら探偵いらないでしょ」


「やっぱりあの墓守が怪しくないっすか?」


「あのね、探偵として論理的に解決する必要があるんですよ。簡単に決めつけないでください」


「すいません……」


 こんな調子でなんかちょくちょく揉めてんです。っていうか、殺人起こってんだから密着やめろよって感じですよね。でも、探偵がため息ついてんですよ。


「正直、この事件の犯人もトリックもまだ見当もついていないんです」


 なにも分かってないじゃん。今まで取材に応えてただけじゃん、こいつ。4人殺されるってかなり終盤ですよね。なんか意味ありげに探偵がニヤリとかする場面もいまだにないってことは、マジでなんも思い浮かんでないよ、こいつ。なんで密着されてんだよ?


「え、やばくないですか……? このままだと迷宮入りってことじゃ……」


「まあ、そういうこともあります、正直」


 めちゃくちゃ諦める気だよ、この探偵。密着取材とはいえ正直すぎるでしょ。そしたら、ディレクターが頭掻いてんです。


「事件解決するところ撮りたいんですけどね……」


 重い空気が流れる中、ディレクターが言います。


「じゃあ、あの墓守が犯人ってことにしません? なんか適当にロジック並べて墓守が犯人って言ってくれればこっちの方で編集しとくんで……」


 ヤラセやり始めたよ、このディレクター。さすがに探偵に怒られるでしょとか思ってたら、


「あ、それでも大丈夫ですか?」


 とか言って探偵が妥協してんです。プライドとかないのかよ? っていうか、あの墓守、オンエア観るって言ってたけど、自分が犯人ってことになったら絶対クレーム入れるでしょ。なんて思ってたら、ガンガン話が進んで、墓守が怪しいですねみたいなことをカメラの前で言い始めたんです。さすがに口挟んじゃいましたよ。


「いや、あの、ヤラセはまずくないですかね? クレイジージャーニーだってそれで一回終わったじゃないですか」


「まあ、裏山で話した時の映像差し込んで怪しかったみたいな雰囲気出しとくんで。あと、具体的なところボカシとけば視聴者なんて分かんないですからね」


「なにも解決してないでしょ。あの墓守、怪しすぎて逆に犯人じゃない空気バンバン出てましたけどね」


「まあ、事実は小説よりも奇なりっていうじゃないですか。現実はそんなもんだよなって感じでまとめとくんで大丈夫ですよ」


 なにも大丈夫じゃないだろ。殺人犯が野放しのままなのはいいんかい。とか思ってる間にヤラセ結末ができあがっていったんですけど、なんかディレクターが撮影してた映像の中に決定的な証拠が映ってたとかで土壇場で犯人判明してました。そんな後ろ向きなどんでん返しいらないのよ。


 あとで聞いたんですけど、密着取材お蔵入りしたらしいです。

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