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第34話 1日警察署長が天下りしようとしてる

 1日警察署長ってホントに署長としての権限を持ってるわけじゃないらしいです。でも、マジで署長を任せるくらいの意気込みで1日署長選んでもいいんじゃないですかね。そういう本気ってのを見たいもんです。


 ただ、この前会った1日署長がやばかったんですよ……。



〜 〜 〜



 私としてはさっさと関係断ち切りたかったんですけど、警察の吹き溜まりみたいな部署──捜査一課特殊任務係トクニンにちょくちょく手伝いで顔出してたんです。私、わりと面倒見がいいんでね。まあ、手伝いといっても役立たずが隔離されているところに行ってグダグダ話してるだけなんですけど。慰問みたいなもんです。


「なんか外にマスコミの車がたくさん来てたんですけど、トクニンの誰かが事件でも起こしたんですか?」


「鈴木さん……僕たちは与えられた任務のために日々駆け回っていて、そんなことする暇なんでないんですよ」


 節穴(ふしあな)刑事がピュアな顔で言うんですけど、このトクニンって虚無の任務を与えられただけの追い出し部屋なんですよ。ホントは電話もパソコンもなかったんですけど、いつの間にか署内から盗んできて勝手に使ってるんです。ものすごい生命力ですよね。盗人猛々しいというか。


「あれは、1日警察署長が来ているからですよ。確かアイドルの子だったかな……」


 木偶野(でくの)警部が署の資料室から勝手に持ち出してきた過去の捜査資料を眺めながら言うんです。形だけでもアイドルに役職追い抜かされて惨めに思わないものなんですかね?


「プリンセス革命の結城(ゆうき)ちゃんですよ! 知らないんですか? あとでちょっと見に行きましょうよ!」


 節穴刑事がテンション上がってるんですけど、私はアイドルに疎くて知らないんです。ただでさえアイドルってたくさんいるじゃないですか。デスゲームでもやらせて数減らしてもいいんじゃないですかね。


 とか思ってたら、トクニンのドアがバーンと開いて、警察の制服を着た美少女が現れたんです。肩からはタスキがかかっていて、「1日警察署長」って書かれてんです。


「ちょっと匿ってください!!」


 必死の形相でデスクの影に隠れるアイドルに私たちは呆然としちゃいましたよ。節穴刑事がパニくるのも無理ないです。



※ ※ ※



「取材陣の皆さんの前で、天下りをしたいと言ったんです」


 結城ちゃんに事情を聞いた一発目の回答がこれで、私は耳を疑いましたよ。どうやら、それが生放送だったらしく、結城ちゃんは羽交締めされそうになって逃げてきたそうなんです。なにそのアホみたいな状況? 節穴刑事もテンパリすぎておかしくなったのか、


「天下りって……あ、あの、石川さゆりの……」


 とか言って速攻で結城ちゃんに、


「それは天城越えです」


 とかツッコミ入れられてるんです。なんか結城ちゃん、意外としっかりした感じの人で……いや、しっかりしてたら天下りしたいなんて言わないか。


「なんで天下りしたいの?」


「わたしの家、すごく貧乏なんです。今も仕送りしてるんですけど、雀の涙で……。だから、署長の力で天下りできないかなって決意したんです」


 木偶野警部たちがなるほどねとか言ってうなずいてるんです。その前に、警察にめちゃくちゃ最悪なイメージ持たれてること気にした方がいいと思ったんですけど、言わないことにしました。


「1日警察署長じゃ天下りできないと思うよ」


 って私が言ったら、結城ちゃん、めちゃくちゃびっくりしてるんです。


「え!? だって署長ですよ、わたし!」


「いや、1日警察署長って所詮PRだし、急にやって来た人にそんなグレーな提案しないでしょ……」


「1日警察署長って延長できますかね?」


「いや、聞いたことないけどな……」


「2、3年くらい署長やればさすがに天下り先のポスト紹介してもらえますよね?」


「どんだけ1日警察署長の座に居座るつもりなのよ?」


 でも、居座るアイドルを追い出すために天下りさせるかもしれないなーなんて思っちゃいましたね。それが狙いか。


「ちょっと僕、延長できないか掛け合ってみます!!」


 なんか節穴刑事が突然やる気に満ち溢れて飛び出して行っちゃったんです。追い出し部屋の人間があんな熱量でバカみたいなこと言ってきたら、私だったらぶん殴ってしまいそうです。結城ちゃんもなぜか目を輝かせてんです。


「頼もしいです……」


「目を覚まして、全然頼もしくないから。というか、アイドルならそれなりに儲かってるんじゃないの?」


「事務所がほとんど持っていっちゃうんです」


「まずは事務所に待遇改善お願いしたら?」


「一回、メンバーのみんなと事務所のサーバーに侵入して取り分を改竄しようとして見つかって以来、言うこと聞かされてるんです……」


「100であなたが悪いよね、それ」


 なんで被害者ですみたいな顔できるんですかね、この子は?


「わたし、天下りたいんです! 力を貸してください!」


 聞いたことない望みを叫んでアイドルが土下座してるんです。私、ついアドバイスしちゃいました。


「じゃあ、まずはここの署長だったり偉い人の弱みを握ってみたら? 世間に公表されたくなかったら天下りさせてくださいってお願いしたらワンチャンいけるかもよ」


「し、師匠……! 勉強になります!」


 なんか勝手に師匠にされたんですけど。しかも勝手にLINEの友達に登録させられたし。


 そんなこんなをしてたら、外が騒がしくなってきたんです。結城ちゃんの追っ手が迫ってきてるみたいでした。結城ちゃん、裏手の窓を開け放って窓枠に足をかけると、こっちを見て、未来を見据えた顔するんです。


「わたし、いつか天下りしてみせます! そして、巨万の富を築いて、毎食つぶ貝のにぎりにしてみせます!」


 志が高いのか低いのか分かんないんですけど、今までの1日警察署長の中で一番熱意があったかもしれません。ちなみに帰りに回転寿司寄りました。

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― 新着の感想 ―
トクニンの慰問ッッッッッ! お優しいッッッッッ! 天下り志望の土下座アイドルとか、 他の小説では絶対出て来ないキャラクターが大勢いて楽しいです。
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