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第30話 第一発見者になりたくて練習してる奴が嵐の山荘の中にいてめちゃくちゃ邪魔

 巷では事件の第一発見者になりたい人も多いと聞きます。私からしたら、私の分もぜひ発見して欲しいくらい第一発見者やってんですけどね。


 でも、第一発見者の役目ってかなり大切ですよ。場合によっては事件の全体像に影響与えますんで、ちゃんと証言しないとそのうち炎上したりするかもしれないです。


 だから心構えは必要なんですけど、練習とかはしないで欲しいですね……。



〜 〜 〜



「う、うわああああ!!!」


 めちゃくちゃでかい声がして部屋から飛び出しちゃいましたよね。ちなみに、ここは山荘、外はひどい嵐です。まあ、事件くらい起きますよね。


 廊下を走って声のする方に向かうと、ドアの開いた部屋の前に宿泊客の男が腰を抜かしてるんです。震える手で部屋の中を指さしてるんで、中を覗いたんですけど、何もないんですよ。そしたら、男が立ち上がって尋ねてくるんです。


「今のいい感じでしたよね?」


「はい?」


 混乱してると、ドタドタと足音が聞こえて、他の宿泊客たちも来るんです。


「事件か?! 俺は刑事だ、中を──……ん?」


 人垣をかき分けて、部屋に飛び込まんばかりに休暇中の刑事が顔を突っ込んで硬直してます。それを見て悲鳴をあげた男が笑うんです。めちゃくちゃ怖くないですか?


「いやぁ、すみませんね。こういうシチュエーションだと殺人が起こりそうじゃないですか。だからちょっと予行練習をね……」


「予行練習ってあんた……誰かが死んだのかと思ったぞ……」


 刑事が肩を落としてるんですけど、あの勢いからすると、この刑事も事件が起こるのをウキウキして待ってた気がするんですよね。集まった宿泊客たちも、


「なんだ誰も死んでないのか」

「きたーって思ったんだけどな……」

「これで犯人もやる気出てきただろ」


 みたいな感じで部屋に戻っていくんです。この人たち、自分が殺される可能性は考えないんですかね? っていうか、事件起こるの確定なんだ。…………これ、自分自身を見せられたようでなんか気恥ずかしいですね。私もこんなふうに映ってたのかと思うと、今後の自分の振る舞いを考えちゃいますよ。



※ ※ ※



「し、ししし、死んでるぅ!!!!」


 しばらくしてまた声がしたので、今度こそと思って向かうと、さっきの男が山荘のラウンジの天井を指さしてるんです。ああ、死体が吊られてるんだと思って見上げたんですけど、なにもないんですよ。


「お姉さん、今回も一番乗りでしたね」


 とか言って、男が拍手してんです。デスゲームのゲームマスターみたいでした。なんだこいつとか思いながら念のため確認しましたよ。


「ええと、また練習ですか?」


「そうなんです。色んなバリエーションの死体発見があると思うんでね!」


 そんな想定要らないだろ。死体だって新鮮に驚いて欲しいのに、想定されたパターンで死んでたら浮かばれないよ。


 ドタドタと足音がして、刑事を先頭に宿泊客たちがやってきました。私は、もう戻るようにって感じで手を振ったんですけど、刑事が残念そうなんです。


「くそ、また出遅れた。お姉さん、次はあなたには負けませんからね」


 なんか勝手にライバル視されてんだけど。私だって好きで一番乗りしてるわけじゃないんだから。


 しかし、さすがにウソ死体発見が続いて、不満も投げかけられてます。


「おい、あんた! 紛らわしいことするなよ!」

「そうだ! こっちは期待して来てるんだから!」

「実質2回も死体発見してるようなものだぞ、不公平だ!」


 なんか訳わかんないクレーム入れてるんです。そんなに第一発見者になりたいなら不眠不休で山荘の中を徘徊してりゃいいでしょ。でも、


「別にボクが悲鳴上げたからと言って皆さんは駆けつける必要ないんじゃないですか?」


 とか男に言われて、さらに言い争いが激化しちゃったんです。


「お前は次に死体見つけても声上げるな!」

「もうお前の悲鳴に価値なんかないからな!」

「逆に今度はこっちが第一発見者になってやるからな!」


 もうアホみたいな言い合いなんです。しかも、ここまでくると犯人も事件起こしづらいですよね。ここでホントに人殺しても誰も駆けつけて来なかったら恥ずかしいですもんね。で、ゴチャゴチャうるさい中で男が言うんですよ。


「分かりました。じゃあ、ボクは次、17時すぎに第一発見の練習するんで。予告しとけばいいでしょ」


 なんでここまで責められてまだ練習するメンタル保てるんでしょうか、こいつは? 予告第一発見なんて聞いたことないんだよ。案の定、めちゃくちゃ反論くらってんです。


「なに勝手に妥協案提示してきてんだ!」

「なんでちょっと上から目線なんだよ!」

「それでホントに殺人起こってたらどう責任取るんだ!」


 よく事件の前に被害者が口論してたなんて証言聞くことあるじゃないですか。今のこの口論、めちゃくちゃ動機に直結しそうじゃん。


 結局、17時になって音沙汰ないんで、男の部屋に行ったら殺されてました。現場にメモが残されてて、「この殺人は次から始まる殺人とは関係ありません」とか書かれてんです。めちゃくちゃ邪魔だから殺されてるんです、この人。


 余計なことするから……と思いつつも、犯人が連続殺人を計画してることが分かったんですが、どうやらこの男を殺すのはめちゃくちゃ衝動的だったらしくて、証拠残しまくりですぐ犯人分かっちゃいました。


 長年温めてた計画だったらしくて、それができなくて犯人めっちゃ悔しがってましたよ。

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