第29話 探偵がキャラで悩みすぎて事件どころじゃない
いつから始まったのか分からないんですけど、探偵がキャラ盛りすぎなのは事件解決するだけだとつまらない奴だって思われるのが怖いからなのかもしれません。
世の探偵の皆さんは無理してキャラ作らなくていいと思いますよ。
まあ、確かにクソ真面目だとつまらないかもしれないですけど、それって別に探偵とか関係ないからね……。
〜 〜 〜
図書館で調べ物してたら、ここでも殺人事件に巻き込まれました。まあ、なんとなくそんな予感してたんで別にいいんですけど、探偵がちょくちょく私のところに相談しにくるんですよ。こっそり調べ物していようと思ってた私の作戦が潰されてるんです。
「あの、鈴木さん……」
逃げようにも図書館の中にいるように警察に言われてるんで、どうしようもないわけです。探偵はいわゆる文化系眼鏡男子って感じで、いつも自信なさげなんです。
「今度はなに?」
「謎を見つけてテンションが上がるキャラでやってたら、小学生くらいの女の子に怖がられてしまいまして……。これってあまり印象よくないですかね?」
さっきまでなぜか事件の内容について私に相談して来たのに急に毛色が変わって、私、何を言われたのか一瞬分かんなくなりましたからね。
「まあ、よくはないだろうね。人死んでるんだからね」
「あー、そうか……。謎が好きな感じだと厳しいですかね? 変な噂流されそうですしね」
どこで悩んでるんだって思いましたけど、何も言わずにいたんです。下手なこと言うとその案採用される可能性あるからね。私、プロデューサーにはなりたくないよ。
「そこは自分が思うようにやればいいんじゃない? で、犯人は分かったの? 私、大手を振って調べ物したいのよ」
「もう少しでいけそうなんですが、いかんせん、これからどういうキャラでいくべきか困ってまして……。決めゼリフとかあった方がいいですかね?」
「うーん、あってもいいんじゃない? どうでもいいけど」
「でも、あれですかね、決めゼリフあったらあったで、これから事件が起こった時に決めゼリフ言ってくださいって欲しがられたりしちゃいますかね?」
「いや、分かんないけど、それが気になるなら決めゼリフなくていいんじゃないの?」
「でも、締まらないですよね。決めゼリフがあることで、これから解決編っていうふうに分かりやすさがあってもいいですよね」
「じゃあ決めゼリフ作ればいいでしょーが」
「どんなのがいいですかね?」
「分かんないって。早く事件解決してよ」
探偵がうーんと唸るんですけど、事件のこと考えてんのかキャラのこと考えてんのか判別できないんですよね。
「眼鏡かけてるとコナンとキャラ被りしないですかね?」
「知らんわ。被ってると思うなら外せばいいでしょ」
「外したら見えないんですよ。これ、伊達眼鏡じゃないんですよ」
「じゃあつけたままにしろや。なんで外す選択肢があったのよ? で、事件は?」
探偵が今度は自分の服を見下ろしてんです。まさかと思ってたら、困った顔で言うんですよ。
「もうちょっとシックな装いの方が探偵感ありますかね?」
「家を出る前に決めてよ。私がなに言ってもいまさら変えられないでしょ。で、事件はいつ解決してくれんの?」
「そのことなんですけど、みんなの前で推理を披露する時、どうやって盛り上げたらいいですかね?」
なにが「そのこと」なのか分かりませんでした。こいつずっと事件の話してないからね。
「飲み会じゃないんだから盛り上がらなくていいんだよ。事件解決してんの?」
皆さんには説明してなかったですけど、今回はかなり強固な密室殺人なんですよ。現場は二重の密室で、その密室を外から監視してた司書もいるんです。中編1本分くらいのミステリーにはなりそうなの。
「ああ、密室は大したことなかったんですけど、今のままじゃとても推理を発表できなくて……」
「ええと、証拠がないの?」
「違いますよ。今までの話で分かりませんか? 僕はどうやってみんなの前で話し出せばいいのかってことですよ。ホームズっぽくしようとしても、こいつ急にキャラ変えたなとか思われるじゃないですか」
「そんなつまらんことどうでもいいでしょうが。事件解決してるならさっさと話してきてよ……」
マジでこの拘束時間意味分からないですからね。こいつが推理をパッと伝えりゃすぐ自由になれるんですよ。私も調べ物に戻れるの。とか思ってたら、探偵が言うんです。
「キャラがブレブレだとナメられるじゃないですか!」
「もうナメられてるから大丈夫だよ。だからさっさと真相話してきてよ」
「ナメられてたら誰も話聞いてくれないでしょうが!」
「なんで私がキレられてんのよ! そのブレブレのキャラでいけばいいでしょ! 探偵史上にそんなアホなキャラいないよ!」
「僕はブレブレキャラは嫌なんです! 恥ずかしいじゃないですか!」
「知らんわボケ! もう充分恥ずかしいでしょ! ならもういっそのこと不思議系天才キャラでいきなさいよ! ポワポワしてあんたっぽいわ!」
「そういう無理したキャラは長続きしないんですよ! 何年か前に1回やりましたもん!」
「やってんのかい! ってか事件の場をキャラ披露の場にしてんじゃないよ! ネタ見せじゃねーんだぞ!」
司書の人が来てうるさいって注意されました。結局、探偵は推理をメモ帳に書いて、授業中に回す時のあの手紙の折り方して警察に渡してました。女子中学生キャラです。