表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/100

第24話 初心者だけで始めたんだろうなっていうデスゲームが始まってみんな一致団結しちゃった

 デスゲーム参加者はデスゲームを選べない。


 子供は親を選べないみたいになっちゃいましたけど、これって真実だと思うんです。いいデスゲームに出会ったら、ああ、また次も参加しようかななんて思えるじゃないですか。私、別にデスゲーム側の人間じゃないですけど、そういう心意気がデスゲームの裾野を広げるんじゃないでしょうか。


 なんか久々に熱いことを言ってしまった気がするんですけど、なぜならこの前デスゲームに参加してきたからなんですよ。


 なんというか、初心に気づかされた気がしましたね……。



〜 〜 〜



 初めからちょっと変な感じはあったんですよ。道を歩いてたら、後ろから走ってきたワゴン車が横につけて、防護服みたいなのを着た数人の男が私を取り囲むまではよかったんです。


「まわり誰もいないね?」

「ええと、いないです、はい!」

「村岡さん、結束バンドは?」

「あ、車の中でした!」


 みたいなワタワタ感が溢れ出してんです。このくだりでもう名前言っちゃってて、杜撰な体制なのが丸わかりなんです。モタモタしてたんで、私、言っちゃったんです。


「あの、時間かかるようなら自分で車乗りますけど?」


 私を取り囲んだ防護服の人たちが一瞬硬直したのが分かりました。たぶん想定外の反応だったんでしょうね。


 っていうわけで、私はデスゲームが行われる施設まで連れてかれたんですけど、車の窓塞いでないし、車内では何時から始まるから〜とか、◯◯さんがどうとか、もう私のそばでめちゃくちゃ裏の話してんです。せめて私を気絶させとけばいいのにって思いながらも、目的地に向かったんです。八王子市にあるんですね、デスゲームの施設。意外と都内なんですよ。



※ ※ ※



 というわけで、デスゲームの参加者が集まる部屋で、防護服の男がゲームの内容を説明するためにモニターに注目させたのになかなか映像が流れなくて気まずそうにしてるのを見て、この人たちみんな揃って初心者なんだなって思いました。


「ねえ、野々村さん、接続の問題じゃないの? ……いや、モニターの電源は入ってるよ。……だから、再起動はさっきしたって……!」


 無線でやり取りしてるんですけど、めちゃくちゃ揉めてるんです。私の会社でもリモートの打ち合わせを会議室でやる時、こういう感じになって10分くらい無意味な時間を過ごすことよくあります。だいたいそういう時に普段あまり喋らない社員の人と仲良くなったりするんですよね。


 かれこれ15分くらい何も進まなくて、参加者同士の歓談の時間みたいになっちゃいましたよ。


「だいぶもたついてるな〜……」


 私のそばではイケおじが心配そうにデスゲームのスタッフさんを見守ってます。


「なんか機器の調子が悪いみたいですね」


「ちょっと見てくるよ」


 イケおじがスタッフのところに行って、話しかけてんです。


「一回ケーブルとか外して最初からやり直してみよう」


 スタッフも「そうですね〜……」とか言ってモニターの裏側に手伸ばしてるんです。


「おいおいおい、いつまで待たせんだよ!」


 血気盛んな美少年が毒を吐いてます。デスゲームなら場をかき回す役割っぽいね。モニターとは別のところにいる防護服のスタッフが平謝りするんです。ここまでくるとただの脱出ゲームがモタついてるだけにしか見えないよね。


「す、すみません……、ただいまモニターの調子がですね……」


「それはさっき聞いたんだよ! だったら、お前が口で説明しろや! なに映像で済まそうとしてんだよ!」


「あの、すみません、ちょっと私たちの手元に台本がないので……」


 部屋の隅では、セクシーなお姉さんが眼鏡をクイっとやって冷たい目をスタッフに投げかけてんです。


「開始時間は15時ということだったわよね? もう16時も近い。あなたたちの計画も狂い始めたようね」


 なんかこのお姉さんはある程度デスゲームの世界観を続けさせようとしてるみたいでした。冷たそうな印象なのに絶対優しい人だよこの人。


「ほほほ、この歳になると立ちっぱなしはこたえるねえ……」


 仙人みたいなおじいちゃんが長い髭を撫でてます。……なんか私だけキャラ薄いんだけど大丈夫?


「も、申し訳ありません……。田所さん、椅子持ってきて、人数分!」


 現場のスタッフさんが裏方のスタッフに無線で指示してくれて椅子が運び込まれてきたんですけど、裏方さんたちは普通にTシャツとかで顔も丸出しなんですよ。まあ、裏方さんまで防護服着てる必要ないからしょうがないよね。


 しかも、お詫びなのか分からないけど、お菓子とかも持ってきてくれたんです。デスゲームの現場でハッピーターン頬張ることになるとは思いませんでしたよ。



※ ※ ※



 16時すぎくらいですかね、やっとモニターが映るっていうんで、私たちはお菓子食べながらデスゲームのマスターと名乗る赤い防護服の人の映像を観たんです。なんかこの頃には現場に一体感が生まれてて、文化祭の出し物を見るみたいな温かい気持ちで映像観れましたよ。最後、自然と拍手起こってたからね。


「いや〜流れてよかったね」


 なんてイケおじが言うと、スタッフも頭上がらない感じなんです。血気盛んな美少年も、


「ふん、映像のクオリティはなかなかのものだったじゃねえか」


 とか言ってツンデレ発動してんです。物語の後半でいいところ見せてきて一気に好感度上げてくるタイプのキャラじゃん。


 で、ようやくデスゲーム開始となったわけです。防護服のスタッフが私たちの前に立って頭を下げます。


「ええと、すいません、ではこれからデスゲーム始めていくんですけど、持ち物の方なんですけど、一旦回収させてもらってもいいですかね?」


「だったらさっきやっとけよ!」


 血気盛んな少年が叫びつつも、みんなで持ち物を預けました。そうなんですよね、さっきまでみんな普通にスマホで暇潰しとかしてたんですよ。しかも、電波も普通に入るから外に連絡し放題だったの。なんかさっきセクシーなお姉さんがインスタにあげるからとか言ってみんなで写真撮ってたしね。


「それで、今から各自が使える武器を選ぶんですけど……、すいません、さっきの映像で銃とかボウガンって言ってたんですけど、ちょっと仕入れが間に合ってなくてですね……」


 なんかずいぶんとショボい武器が運ばれてきました。慌てて集めたんでしょうね、フライパンとかカッターみたいな手軽に買えるやつしかないんです。なぜ参加者から落胆のため息が漏れたんですけど、みんな銃をぶっ放したかったのかな? グアムにでも行けばいいのに。


「そして、このデスゲームでは、一定時間ごとに殺戮者が現れますので、襲撃をかいくぐって生き延びてください。今回の殺戮者はこちらです……」


 ようやく良さそうな演出が出てきたと思ったんですけど、スタッフが登場ゲートみたいなところを指さしても何も起こらないんです。スタッフがイヤーモニターに手を当ててるんです。なんか連絡きたんでしょうね。


「あの、すみません、殺戮者の子供が熱出したとかで、ちょっと帰宅してしまったんですが、おそらく殺戮タイムまでには来られるかと……」


「ふざけんな! その時間にそいつが来なかったらどうすんだよ!」


 なんか血気盛んな美少年がクレーム入れてんです。来ない方がいいでしょ、殺戮者。っていうか、子供いるのに殺戮者やるなよ。


 もう、非難轟轟なんです。大半がちゃんとやれっていうデスゲーム推進派の嘆きみたいなもんでした。もう誰が誰の味方してんのって感じです。


 そしたら、防護服のスタッフさん、急に土下座しだして、


「もっ、申し訳ありませんでしたぁ〜!!」


 って謝罪してんです。私たちに殺し合いさせようとしてたことは謝らないんかいって感じですけど。


「この度は我々の至らぬことばかりで皆様には不快な思いをさせてしまいましたぁ!! 私もよりよいデスゲームを提供したいと考えておりましたが、不手際が多く、お詫びを申し上げることしかできませんっ!!」


 熱い思いが届いたんでしょうね、イケおじがスタッフさんの肩叩いて慰めてんです。


「気持ち、伝わってるよ。でも、今回は諦めて、次はちゃんと準備を整えてからやろう」


 なんの時間なんだよ? って思ってたんですけど、みんななんかスタッフさんに温かい眼差しなんで私なにも言えなくなっちゃいましたよね。でもまあ、夜ご飯の時間には帰れそうなんでいいか。


「次もみんなで集まろう」


 イケおじがなんか勝手に約束してるんです。なんでデスゲームやりたいんだよ? みんなも強くうなずいてんの。なに気持ちひとつになってんの、この人たち。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 スタッフさんたち総出で頭下げてお礼言ってんです。地元で長く愛されたスーパーの最後の日じゃないんだからさ。


 とか思ってたら、急に警察が突入してきて、スタッフさんたち逮捕されてんです。どうやらさっきセクシーなお姉さんがインスタに上げた写真見た人が通報したみたい。


 連行されるスタッフさんがこっちに拳を突き出して叫んでるんです。


「また一緒にやりましょう! 必ず戻ってきます!」


 まあ、余ったお菓子とか持ち帰っていいってことだったんで、よしとしますかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ