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第15話 内見に行った館が住み心地よりも事件を期待した造りしすぎてた

 私が住んでたマンションなんですけど、この前アイドルが殺されまして、そのせいでなんかファンの間で聖地みたいになってんです、最近。


 死ぬほど遅い時間、路上に魔法陣描いて喚く輩とかが出て来て、ついに私も住み慣れた場所を離れようかなーなんて思ったんです。


 で、不動産屋を回って内見の日が来たんです。いい物件だったんで、ここにしようかななんで思ってたら、不動産屋さんが「ちょっと見てほしい物件があるんです」とか言うんです。


 ついて行ったらやばい物件でした……。



〜 〜 〜



 ちょっと駅から離れたところに洋館が立ってるんです。駅から徒歩15分。もう帰ろうかなとか思ってたら、不動産屋さんが「ここ、12万円です」とか言うんです。


「いやぁ、さすがに徒歩15で月12万はキツイですね……」


「いや、月じゃなくて、全部で、です」


 賃貸じゃないって言うんですよ。


「絶対やばい物件ですよね。いま流行りの変な家的な……」


「大丈夫です! 2、3人くらいしか死んでないんで」


「なにが大丈夫なんですか。5人以下ならOKなんて言ってないでしょ」


 でも、イチオシの洋館らしく、しきりに内見を勧めてくるんです。たぶん私に押しつけようとしてますよ、これは。


「あの、鈴木さま、風の噂で聞き及んでおりますよ。なんでも、死体など見慣れていて、バラバラ死体のそばでも焼肉を食べられる、と……」


「どこの誰が言ってたんですか。私は繊細な女子ですから、死体のそばで食べられるのはせいぜいケーキまでですよ」


「やっぱりお似合いだと思うんですけどね……」


「服の色違いみたいに言わないでくださいよ……」


 でもまあ、熱意を買って洋館に入ることにしたんです。私、情に厚いタイプなんでね。


 それにしても、この洋館の上空だけ天気悪くて、明らかに呪われてるのが全く隠せてないんですよね。私、気圧が不安定だと頭痛くなるんですよね……。



※ ※ ※



「この館は、2012年に世界が終わると信じていた持ち主の方が家族をお連れになって天国へ出発されてから様々な方が所有されてきました」


「家族皆殺しってことじゃないですか。行くのは地獄でしょ……。っていうか、ここで死んでるの2、3人じゃ済まないでしょ」


 内装も外観と同じアール・ヌーヴォー様式で、まあ綺麗ではあるんですけど、曰くがあると思ってみると不気味に見えるんですよね。館は部屋数も多くて、どうやらゲストをこれでもかと泊められるみたい。ゲストルームも広々としてていいんですよ。民泊として買い取ってインバウンドで儲けてやろうかな?


「一番奥のゲストルームは隠し通路で2階の物置部屋と繋がってるんです。もし密室殺人なんかご入用でしたら使えますよ」


 なんか殺人をお勧めしてきたよ、この人。私そんな凝った殺し方しそうに見えるんですかね? マジで頭に来たら正面からいってやりますよ。


「密室の謎が隠し通路って冷めますよね……」


「そうおっしゃるかと思いましたので、ゲストルームの窓の外のわずかな出っ張りを使って部屋を移動するトリックはどうです? 荷物用のエレベーターも天井を外すと人も乗れるんです。トリックにどうぞ」


 なんで誰かしらの目をごまかすための仕掛けがふんだんにあるんだよ? なんで色んな人の目に触れた状態で事件起こす前提なのよ? 前々から思ってたけど、館の中で人殺すのってめちゃくちゃリスキーだよね。


「それから、この館を買うと、ここと全く同じ館もついてきますよ!」


「なんでそんなテレビショッピングみたいなことになってんですか……。要らないでしょ、同じ館ふたつも……」


「ただ、全く同じなので、館はふたつあるのに1箇所で起こった出来事に見せかけられますよ?」


「あのね、私、叙述トリック仕掛けたいわけじゃないんですよ。いつも思うけど、誰に向けてやってんの、叙述トリックって?」



※ ※ ※



 このミステリー好き──いや、ミステリー狂い……いや、ただのバカが作った館も、これくらいで終わりだと思うじゃないですか。2階にセーフルームがあるから、そこだけは見てほしいって不動産屋さんが言うんで渋々向かうことにしました。


 どうせそのセーフルームに篭っても謎のトリックで殺されちゃうでしょ、絶対。不動産屋さんの後について、絵や美術品が並ぶ部屋へ。美術品も全部込みで12万……。要らないもの売り払ったら逆に儲かりそうじゃないですか?


「ええと、セーフルームに行くためには、このギャラリーで天使の涙というサファイアを手に入れます。次に、中庭の天使像の台座にサファイアをはめると、地下書庫への扉が開くので、そこでネクロノミコンを入手します」


「なんでセーフルームに行くのに謎解きみたいなのしなきゃいけないんですか。めちゃくちゃ余裕がないと逃げ込めないでしょ……」


「なんでも、セキュリティのためだとかでこういう造りになってるみたいです」


「こんなシステムの館、バイオハザードの世界にしか存在が許されないでしょ……」


 結局、私たちはネクロノミコンに隠された小さな鍵で地下牢獄に行き、謎のモンスターを倒して、その身体の中から出てきた虹色に光る宝玉を手に入れて、ようやくセーフルームに入ることができました。……なんか途中に変なプロセスが挟まってたの気づきました? 私もさすがにビビりましたよ。この館、地下に謎のモンスターいるんですよ? 過去の殺人が〜とか言ってる場合じゃないの。今すぐ自衛隊を突撃させないとダメなやつです、きっと。でもまあ、色々めんどそうなんで、黙っとくことにしました。


 セーフルームは頑丈で、館の中を無数の監視カメラでモニタリングできるようになってました。トイレの中の映像もあってドン引きしましたね。これ作らせた館の主人、相当キモいやつですね……。


 なによりも館の中がなんか臭いので、やっぱりお断りしました。

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